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ピックアップアーティスト Vol.47 高橋維の今

Interview | インタビュー

取材・文 = 高坂はる香

―オペラというと、近年は斬新なものから保守的なものまでさまざまな演出がありますが、そのあたりはどう感じていますか?

 私はどちらも受け入れるほうです。例えば2015年にクレオパトラ役を演じた二期会ニューウェーブオペラ劇場『ジュリオ・チェーザレ』。菅尾友さんの演出は斬新なもので、動きながら歌う難しい場面もあるのですが、それらがとても効果的だと感じられました。
 私としては、とにかく作品がすばらしく見える演出であれば、なんでもやってみたいと思います。ただ、なんでもやりますというからには、テクニックがしっかりしていないといけません。特にドイツもののオペラは、声だけでなくお芝居の要素が重要視される傾向にあり、それだけに演出が凝っていることも多いのです。

2015年5月 二期会ニューウェーブ・オペラ劇場
『ジューリオ・チェーザレ(エジプトのジュリアス・シーザー)』クレオパトラ役
新国立劇場 中劇場/撮影:三枝近志

―10月には、王子ホールでリサイタルもありますね。

 リサイタルもパフォーマンスとして良いものにしたいという思いがあって、監修に、演出家の田尾下哲さんをお迎えします。田尾下哲さんは2020年のNISSAY OPERA 2020 特別編『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』で、演出や翻訳を手がけた方。シンプルなリサイタルもいいのですが、視覚的にも楽しめる舞台になるよう、今度のリサイタルではステージングをしていただきます。

五島記念文化賞 オペラ新人賞研修成果発表
《高橋 維 ソプラノリサイタル》

≫公演詳細はこちら

日時:2021年10月17日(日) 14:00開演(13:30開場)

会場:銀座 王子ホール

出演:高橋 維(ソプラノ・平成28年度五島記念文化賞オペラ新人賞)
多田聡子(ピアノ)、田尾下 哲(監修)

料金:(全席指定・税込)4,500円
2021年6月10日(木)発売

お問合せ:二期会チケットセンター 電話 03-3796-1831

2020年11月 NISSAY OPERA 2020 特別編
オペラ『ルチア~あるいはある花嫁の悲劇~』ルチア役
写真提供:日生劇場/撮影:三枝近志

―理想としてる声や表現はありますか?

 昔はあったのですが、最近はあまりそういう具体的なイメージがありません。どちらかというと、聴いたことのない理想を自分で作りたいのだと思います。それがいつか見つかるのか、一生見つからないのかわかりませんが、まだ見ぬ理想に少しでも近づけるよう、がんばっています。

2016年11月 東京二期会オペラ劇場『ナクソス島のアリアドネ』ツェルビネッタ役
日生劇場/撮影:三枝近志

―では、声楽家として歩むうえで大切にしていることは?

 他の人と比べないことですね。まずは自分の意思を尊重する。もちろん比べることが必要なときもありますが、上には上が絶対いるから、常に比べていると疲れてしまいます。それよりも、自分がやりたいこと、できること、大切にしたいことを一番に考えるようにしています。
 最近まで私は、自分が音楽好きだと思えていなかったんです。母から言われて音楽を始めて、これしかできることがないからやっているだけだと思っているところがありました。東京藝大に入ったら、周りは音楽の知識が豊富な人ばかりで、彼らに比べたら私は音楽が好きだなんて到底言えないと思ってしまったんです。
 でも今は、知識は劣る部分はあるかもしれないけれど、舞台を愛し、敬意を持って取り組んでいるということに関しては絶対に自信があると思える。それで、比べることをやめたんです。

2019年11月 東京二期会オペラ劇場『天国と地獄』ユリディス役
日生劇場/撮影:三枝近志

―最後に、音楽家としての今後の目標をお聞かせください。

 コロナ禍も相まって、人とのつながりが本当に大事だと改めて感じています。
 作品と向き合い、登場人物のことを考えることによって、人間の真理について多くを知ることができる。歌い、パフォーマンスをすることで、共演者や関係者などいろいろな方の考えに触れ、敬意を感じることができます。
 いろいろな人の思いが一つの舞台を作り、それがまた人を感動させ、誰かの生きる活力になる。そういう意味で、私は歌を歌うことによって人と繋がっていると感じます。舞台は、人間に対しての愛とリスペクトがないとできないものです。
 だからこそこれからも、そんなふうに人と繋がっていられるような歌とパフォーマンスをして、自分も元気をもらったり、誰かに元気を与えたりしていけたらいいなと思っています。