11年前、ある14歳の少女が、劇場のオープンディ(ファン感謝デーみたいなものです)で小森輝彦氏からサインをもらった。
彼女はこのアーティストのファンだったのだ。今、彼女は彼の同僚としてアルテンブルク・ゲラ市立歌劇場の合唱団の一員として歌っている。 小森輝彦氏は感慨深そうに語る。「僕は、なんと時間が早く過ぎ去るのかを感じる事が出来ます。僕はここテューリンゲンに10年以上(Jahrzehntというのは一世紀の10分の一)もいるわけですね。」 ・・・彼女はこのオープンディで彼(小森輝彦)の歌を聴いて感激し、横にいたお母さんに「私は歌い手になる」と宣言した。 2011年のクリスマスコンサートの休憩でのこと。フォワイエで郊外からやってきた老夫婦が話していた。「車の故障が直って本当に良かった。そうでなかったら彼(小森輝彦)の歌を聞き逃すところだったよ」「何を言ってるんだ。もし車が直らなかったらタクシーで来るに決まってるだろう!彼が歌うときは何が何でも劇場に来なくちゃならん。家に我々を留めておけるものなんて何もない!」
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2010年に行われた劇場オスカーの授賞式で、小森氏は「仮面舞踏会」からレナートのアリアを歌った。終わったあとに自分のところに来た友人が言うには「小森輝彦氏が舞台で歌っていると、人は時間も空間も忘れて、何か別の世界に連れて行かれてしまう様だ」
私自身、この感覚を何度も味わった。この我々の「聴衆のアイドル(お気に入り)」が舞台に立つと、私はいつも拍手するのを忘れてしまうほどに深くその世界に引きずり込まれてしまう。 遠くベルリンからやってきた友人が、アルテンブルクで初めてオペラを体験することになった。ベッリーニの「カプレーティとモンテッキ」である。これは彼女にとって初めてであると同時に忘れがたい体験となった。「小森輝彦氏が舞台に出てくると、知らないうちに彼だけを目で追っている。彼は彼の声と演技で、私をすっかり虜にしてしまった。」
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