ラテンの情熱溢れるテノールリリコ
“我が歌、イタリア、スペインへの想い!”
二期会ゴールデンコンサート 2013年11月30日(土) 16:00 開演
Vol.42「井ノ上了吏 テノール」
第一声から溢れる情熱と豊かな抒情。日本を代表するリリック・テノール、井ノ上了吏が二期会ゴールデンコンサートに登場!
『椿姫』アルフレード、『トスカ』カヴァラドッシ、『蝶々夫人』ピンカートンなど、多くのプリモテノールの役で、確かな歌唱と華ある舞台姿を印象づけ、オペレッタ『こうもり』アルフレードやアイゼンシュタインでの華麗な演唱でも聴衆を魅了。2013年5月には二期会創立60周年記念公演《ライプツィヒ歌劇場との共同制作》『マクベス』(ペーター・コンヴィチュニー演出)マクダフで権力に翻弄される要役として存在感溢れる演唱で歴史ドラマの一端を担いました。 そんな井ノ上了吏の今を聴くゴールデンコンサート。今回は、その主要なレパートリーであり、アーティストとしての魂といっても過言ではないイタリア、スペインの歌にスポットを当てています。どうぞご期待ください。 |
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今回、ゴールデンコンサートで選んだプログラムはオールイタリアかという予想に反して、スペイン歌曲にも拘った。第一部をイタリア、スペインの歌曲とし、甘く切ないトスティからはじまり、セビリャが生んだ近代スペインを代表する作曲家トゥリーナの曲へと誘う。
井ノ上:「オペラやイタリア歌曲を歌う一方で、長年のライフワークのように歌い続けているのが、スペイン歌曲です。 民音コンクールでも ファリャの歌曲など歌っていました。20世紀スペインの国宝と称されたカタルーニャ出身のフェデリコ・モンポウ(Federico Mompou)の歌曲には20代の頃に出会い、その静謐さを湛えた美しい作風に強く惹かれました。そして〈サルスエラ〉はスペインの伝統的な音楽劇でスペイン語による台本が重要視され、大きくバロックサルスエラとロマンティックサルスエラに分けられ、 活き活きとした舞曲や舞踊はとても人間味にあふれていて、現代の風刺なども取り入れられているまさにスペインのミュージカルのようですね。二期会のスペイン音楽研究会には立上げから携わっていますが、多民族が混在するスペイン音楽には計り知れない多彩な魅力があるように思えるのです。イタリアもスペインも情熱的な国だけれど、イタリアが真夏の太陽、甘い音楽なのに対しスペインの音楽はもっと男っぽく乾いている。それはスパークリングワインに例えれば、イタリアのスプマンテ(Spumante)に対して、辛口のスペインのカヴァ(Cava)の味わいの違いにも表れているような気がします。スペイン歌曲はどこか火傷するように熱く、歌えば歌うほど奥が深い。そんな音楽の魅力をお客様と分かち合えたらと選んだプログラムなのです。」
スペインといえば、アルフレード・クラウスはカナリア諸島、プラシド・ドミンゴはマドリードの生まれだし、ハイメ・アラガルやホセ・カレーラスはスペインのカタルーニャ州バルセロナ生まれ。彼らを育んだ故郷の音楽を、演奏家として充実期を迎えた井ノ上了吏が歌う。演奏家として培った全てを賭けた渾身の演奏に期待が膨らむ。さらに後半はスペイン~サルスエラ、イタリア~オペラということで、魅惑のサルスエラに加え、王道のヴェルディオペラから名アリアの数々をたっぷりと真っ向勝負で挑む。
井ノ上:「福岡の出身です。少年時代を振り返ると中学の頃はサッカーとブラスバンドの二足のわらじでした。そしてブラスバンドの先生の勧めで歌を始めると、学生コンクールの九州大会でなんと2位に。小学校4年の頃には国際放映系列の劇団に入っていて、そこで俳優の池部良さんと出会い、教育映画に出演したことも。歌は好きでしたが一般の大手メーカーに就職し、サラリーマン生活を経て、演奏活動を続けながら女子高の教諭を5年弱。教諭時代にブラスバンド部やコーラス部の顧問を務めていた時期もありました。
東京二期会『セビリャの理髪師』で、早逝の名テナー故山路芳久さんのアンダースタディーを務め、オペラへの想いは消し難いものとなっていったのです。一度は諦めかけた演奏家への道。しかし歌への情熱はますます強くなり、居てもたっても居られずに、教師の退職金とコンクールの奨学金で渡欧し、発声を勉強し直し、1991年から95年までイタリアに暮らしました。
イタリアでは庭で炭を焚いて料理をしたり(現在も庭でやってますが)、パスタやカルパッチョも得意。ワインも好きだし、グラッパも嗜み(笑)。」
イタリアの土地がやはり性に合っていたのか、めきめき実力を蓄え、ブレーシャ、ベルガモ、ミラノ、モデナ、パルマなど、各地で演奏活動を続けた。レッジョ・エミーリアの劇場ではオペレッタでも評価されている。
けれどイタリアでは市民権がなければ正式に劇場の専属歌手にはなれない。ミラノ時代にこのままここに居続けるべきかと自問するうち、恩師プランデッリ氏が「リョウジ、自分が望まれるところで歌いなさい」と助言してくれたことで気持ちが吹っ切れた。間もなく4年間の武者修行を経て帰国。帰国後当初は仕事も無くレストラン〈シェ松尾〉などに演奏の仕事を自ら売り込みに行ったことなどもあるという。しかし、舞台映えする容姿と日本人離れした輝かしい美声でスターダムを駆け上がり、もはや20年近くも演奏家としての第一線をまっしぐらに突き進んでいる。
井ノ上:「モデナ留学時代の師に言われた教えの数々が、今も私の中で演奏家としての原点となっていると思います。それは〈音楽家に一番大切なことは、ソルフェージュ能力と‘言葉の力’〉ということです。
言葉(訳)と感情が一致していなければ、表面的なアプローチで音楽は伝わらないということを身に沁みて叩きこまれましたから、楽譜を読み対訳を見て済ますということで終わらずに、ひとつひとつの言葉を自分で調べ、自分のコトバで訳して、納得ゆくまで噛み砕き歌い込みながら、歌を成長させてゆくことを心がけています。
そういう自分なりのアプローチでこれまで演奏と向かい合い、続けているうちにそれはポリシーとして、確信できるまでになってきました。」
井ノ上:「長く歌い続けるためには身体の状態を万全に整えなければなりません。何をすればそうあり続けられるのか。それは人によってさまざまなのでしょう。私はもともとサッカー少年でしたが、最近はシャドーボクシングをしています。
身体、発声、言語、演技、立ち方を含み、全てはバランス感覚なのでしょうが、一朝一夕に体得できるものではなく、声楽は奥が深いなぁといつも思います。けれど続けてゆくうちに何か最近、自然に音楽や呼吸の流れが掴めるようになってきた気がします。
『愛の妙薬』『ルチア』なども大好きですし、私の声、イタリアの音色って言って頂けるのはやはり嬉しいですよ。一番沢山歌っている役は『椿姫』のアルフレードですね。ただ音楽はスポーツとは違って勝敗ははっきりしないというか、いつも自分との闘いであり、何度も経験した役ならなおさら、ピュアな気持ちで歌い続けなければと心がけています。
オペラもコンサートも今は音楽に携わっている日々に幸せを感じていますし、音楽の正しい姿を自分なりに伝えてゆきたいと思っています。」
■2012年10月20日 二期会ゴールデンコンサート
テノールの日
津田ホール
■《二期会創立60周年記念公演》
東京二期会オペラ劇場 ヴェルディ『マクベス』
2013年5月東京文化会館大ホール
マクダフ:井ノ上了吏
撮影:三枝近志
■東京二期会オペラ劇場『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』 2009年2月東京文化会館大ホール アルフレード:井ノ上了吏 ジェルモン:青戸 知(上) ヴィオレッタ:安藤赴美子(下) 撮影:三枝近志 |
■東京二期会オペラ劇場『椿姫』
2005年6月 文京シビックホール
アルフレード:井ノ上了吏 ヴィオレッタ:佐々木典子
撮影:鍔山英次
二期会ゴールデンコンサート Vol.42「井ノ上了吏 テノール」
2013年11月30日(土) 16:00 開演
津田ホール(JR千駄ヶ谷駅前)