ベルク「ピアノソナタ」作品1について
今回のゴールデンコンサートでは、ピアニストの長尾洋史さんが、
プログラムの後半でベルクのピアノソナタを演奏します。
室内楽や多数の器楽奏者とも共演し、初演をふくむ現代音楽も数多く
手がけている長尾さんは加納の朋友。
この作品の魅力について、加納悦子が長尾さんにお話を伺いました。
インタビューアー 加納悦子
加納:
ベルク「ピアノソナタ」作品1というのはどういう作品なのでしょうか?
後期ロマン派の色を濃く残す曲ですか?
長尾:
「作品1」ということからもわかるように、(もちろんこれ以前にも「若き日の歌曲」のような作品はありますが)作品番号のついた曲の中では最初の作品で、ベルクがシェーンベルクに教わっていた頃に書かれた曲です。本来は3楽章からなる大ソナタを計画していたけれども、1楽章を完成したところでシェーンベルクが「これで完結でよいのではないか」と言ったのにベルクも賛成したということで、こういう単一楽章の作品になったのですけど、、、あの、、、微妙に調性が残っているんですね。これは作品2の歌曲なんかもそうですけど、もうその、、これ以上熟すと腐ってしまうギリギリの果実みたいな、そのまあ、綺麗っていうものをもっと綺麗にとか、色も濃くしようとすると、だんだんとどす黒くなってしまうギリギリぐらいの爛熟なものです。
でも、これを書いたのはすごく若いベルクです。
たまたま大学3年生のときにこれを聞いて(ちょうどベルクがこの作品を作った時くらいの年代だと思うんですが)あの頃すごく共感して大げさに言うと「ピアノのために書かれたソナタ」の中では一番好きな作品かもしれないです。
だからこういった初期の歌曲と並べて弾くっていうのは、聞かれるお客様も色々な共通点を聞かれるだろうし、僕にとっても、このソナタを知っているから、これらの歌曲もフィーリングとしてわかる感じです。
加納:
今回のプログラムの中にはベルクがもっと若いころに書いた、調性のはっきりした歌曲もありますが、このソナタ作品1から投影できる感覚はありますか?
長尾:
そうですね。逆に調性で書かれた若き日の歌曲の中にも、その後のベルクを彷彿とさせるものがあるから「あっ、こういうちょっとしたところがこういうふうになっていくんだなぁ」と見えることがとても興味深いと思います。
加納:
彼の作品の根底にはものすごいロマンティシズムが流れていますよね。
長尾:
それはもう弾いていて楽しいですよね。だからベルクなんか、今でこそもうみなさん弾かれるけど、ちょっとまぁ、いくらロマン派的といっても、不協和音の使い方は大胆だし、その和音や響きだけを聞いて、いわゆる現代音楽みたいな感に受け取られる可能性もあるんだけど、音楽の中身はこれ以上ないというほどロマンティックです。
加納:
その部分を聞いていただけたら嬉しいですよね。
長尾:
そうですね。
加納:
歌の中身も実は他のロマン派のものと比べてもそれ以上にロマンティックだったりするので・・・
長尾:
そう。だからこのソナタをこういった歌曲の演奏会の中で弾くのはとても意義のあることだと思います。
加納:
私もとても楽しみにしています。
2011年5月26日
長尾洋史(ながお・ひろし) ピアノ NAGAO, Hiroshi Piano |
東京藝術大学、同大学院修士課程を修了。安宅賞を受賞。宗廣祐詩、遠藤道子、米谷治郎の各氏に師事。1995年パリ・エコールノルマルに留学。
NHK交響楽団、東京交響楽団、東京都交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団など主要オーケストラと共演。
ソロ・リサイタルのほか、現代音楽分野では国内外の作品初演を多数手がけている。また「東京の夏」「サイトウ・キネン・フェスティヴァル」などの主要音楽祭の出演、また室内楽も積極的に行い、ミシェル・ベッケ(トロンボーン)、エリック・オビエ(トランペット)、ジャン=イヴ・フルモー(サクソフォーン)、パーヴェル・ベルマン(ヴァイオリン)等の管弦楽器奏者との共演も多い。
ソロCDは、「エボカシオン」「長尾洋史プレイズ ラヴェル&ドビュッシー」(ライブノーツ)、最新CD「メシアン:アーメンの幻影/藤原亜美&長尾洋史」(コジマ録音)ではレコード芸術準特選盤に選ばれるなど高い評価を得ている。
現在、国立音楽大学准教授、東京藝術大学非常勤講師。