オペラシーンで観客を魅了し続けるディーヴァ、大岩千穂さん。いよいよ8月2日(土)に二期会ゴールデンコンサート 〜ディーヴァ達の四季・夏〜 へ出演する大岩さんに表現者として、舞台人としての原点から今後の抱負までお話しを伺いました。
〜大岩千穂の原点〜
月並な質問で恐縮ですが、先ずは大岩さんと音楽との出会いについて伺えますか?
私の音楽との出会いは3歳の頃です。バレエを習っていたのでチャイコフスキーの「白鳥の湖」とかを良く聴いていましたね。父のLPレコードを引っ張り出してきては、その音楽に合わせて台詞や振り付けを考えたり、家中の物を使って照明やセットを組んで歌ったり踊ったりしていました(一人で!)。ピアノを弾くのも大好きでしたね。弾くというよりは“叩く”が正しいかも(笑)。ストーリーを考えて弾くんです。例えばアフリカのサバンナに象の群れが歩いていて“ドドドドドッ”(フォルテで!)、その近くには群れからはぐれたシマウマの赤ちゃんがお母さんを探し歩き回っています“トトトトッ”(高い音で可愛らしく)、そして草むらからはライオンが息を潜めてシマウマの赤ちゃんをジロッと見ています“デロデロデロ”(低い音で不気味に)なんて感じで。空想の世界でストーリーを思い巡らせるのが大好きだったんです。
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2006年2月 東京二期会オペラ公演『ラ・ボエーム』 |
可愛い演出家ですね。その後も気になりますが…。
そうですね。小学校に入るとヴァージョンアップしました。お昼休み(給食の後の長い休み時間)にはクラスの机を全部後ろに寄せて、お友達と即興劇をして遊んだり、脚本を書いて文化祭で発表したりしていましたね。
とにかくみんなで盛り上がるのが大好きで“演出家”というよりは“お祭り女”って感じですね。
中学生になると“お祭り女”がパワーアップして修学旅行ではバスガイドさんに代わってマイクを持って歌ったり踊ったり。
みんなの楽しそうな顔を見ると、とにかく血が騒いじゃうんです!!
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今の大岩さんの原点を垣間見るようなエピソードですね。
ちょうどその頃はテニスに没頭していたと聞いていますが。
そう!テニスには没頭しましたね。
とにかく早朝から晩まで練習に明け暮れていて、テニス漬けでした。
高校ではインターハイの強化チームに選抜されていたんですよ。意外でしょう? |
〜ディーヴァ“大岩千穂”誕生!〜
そんなテニス少女が歌手になろうと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
たまたま兄から貰ったチケットでライプツィッヒのオーケストラの来日公演に行ったんです。
会場はNHKホールで演目はベートーヴェンの交響曲第9番でした。
4楽章の最後の4人のアンサンブルが素晴らしくて。雲間から真っ直ぐに差す一筋の光のようなキラキラとしたソプラノの声を聴いた瞬間、体中を衝撃が走ったんです。
こんな感動がこの世の中にあったんだ!私、客席に座っている場合じゃない!って。
テニスに明け暮れていた私にとっては、カラカラの乾いた大地に水が浸み込むように
出会うべくして出会った感動だったんでしょうね。
翌日には学校の先生に「私、歌手になります!」って言いに行ったんです。 |
「歌手になりたい」ではなく「歌手になります」と言い切るあたりが大岩さんらしい!
それで高校の先生に力になってもらい、晴れて歌手の世界へ一歩踏み出したということですね。
その後、大学入学、そして留学されていますが、特に影響を受けたことは何ですか?
やはりイタリアへ留学したことですね。
何処の国に行っても同じかもしれませんが、言葉の通じない地では10個話しても1〜2個しか分かってもらえない。分かってもらう為にはたくさん話して自分の意思をこれでもかって伝えなければならないんです。
こう見えても私って引っ込み思案なので度胸がついたというか、コミュニケーションをとるうえで丁度良いバランスになれたんじゃないかなと思っています。
それとイタリア人の気質を肌で感じられたことが大きかったですね。
私は北イタリアに住んでいたのですが、イタリア人ってお互いの距離感のとり方がとても上手なんです。
「私は貴方を理解して自由を与えます、だから私も自由でありたい」「私は今とても悲しいけれども貴方には笑顔でいて欲しい」…。人の心に土足で入っていかないんですね。社交的で明るくて、時には子供の様に騒いだり、おどけたりしていますが実はとても大人なんです。そんな気質は音楽にも浸み込んでいて、例えばナポリ民謡(明るい曲調の作品)でも、実は口には出せないような憂いや悲しみが根底にあったりするんですよね。
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〜今を生きる〜
“人とのふれあい”が大岩さんの栄養になったのですね。
そんな中で大岩さんが大切に感じていることはありますか?
“今を大切に生きる”ということかな。
今、こうやって発した言葉も、その瞬間に過去のことになってしまう。
人との関わりも同じだと思うんです。「あの人ってこういう人だから」とか先入観をもって対面するのは好きじゃないですね。私が日々変わっているのと同じように、過去の自分と今の自分では違っているはずなんです。だから、いつも初めて会うときのような期待を胸に人と接するようにしています。その方がお互いにドキドキ・ワクワクして楽しいじゃないですか!
音楽についても同じことを感じますね。 演奏した声は放たれた瞬間、ホールに響いて消えてしまう。
お客様とホールの中で同じ空気を、同じ時間を共有するのって奇跡のように感じます。
いつもその奇跡をギュッと抱きしめながら、感謝しながら歌っているんです。
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まさに一期一会ですね。
そんな中、ここ数年の大岩さんの演奏を聴いていると良い意味で変わったなと思うんです。
とてもナチュラルな美しさというか気品というか、じかに心に届いてくるような音楽を感じるのですが、ご自身の変化はあるのですか?
そうですね、ここ数年で変わった事といえば「私を聴いて!」っていう気持ちがスッと抜けたことかな。
今までは多くの人に知ってもらいたい、私の音楽を分かって欲しいと思っていたんです。でも最近はそういう気持ちが自然と薄らいで、私を愛してくれる人の前では偽りのない正直な自分でありたいと思っています。
今まで私の欠点を大目に見てくれた家族や友人に支えられて生きてこられたことに感謝しているんです。20代の頃はがむしゃらに前だけを見て過ごしていたから気付かなかったんですね。
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〜Next Stage〜
技術の向上だけではなく、心が成熟することで味わい深い表現になるのですね。
まさに“大岩千穂の今”そして今後が楽しみになりました。
それでは最後に、今後取り組んでゆきたい事などお聞かせいただけますか。
いろいろありますね。それこそ8月2日(土)のゴールデンコンサートで歌わせていただくR.シュトラウスの歌曲。
機会があれば“4つの最後の歌”もいいですね。あとはシューマンの“女の愛と生涯”とかシェーンベルク、クルト・ワイルの作品などなど・・・・
でも、やはりバッハですね。数多ある素晴らしい音楽の中でもバッハの作品は別格。バッハの作品に触れるといつも思うんです、「人間の世界すべてを俯瞰(ふかん)しているようだ」って。宇宙や自然、生命の真理を追究しようとしても全てを解明できないのと同じように、人間には手が届かない神の領域というものをバッハの作品からは感じます。
だから、カンタータ、ミサ曲なども挑戦したいですね。
このインタビューを読んでいただいている頃には、また少し違った大岩千穂になっていると思います。コンサートで、劇場で“大岩千穂の今”をご覧頂ければ嬉しいです。 |
【“大岩千穂の今”を聴く】
情熱をたたえて-艶やかに咲きほこる大輪
日時:2008年8月2日(土) 16:00開演(15:30開場)
会場:津田ホール(JR千駄ヶ谷駅前/都営大江戸線国立競技場駅A4出口前)
■予定演奏曲目
R.シュトラウス:「献呈」
R.シュトラウス:「ツェツィーリア」
ロドリーゴ:「恋のアランフェス」
「ダニーボーイ」(アイルランド民謡) |
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プッチーニ:「私のいとしいお父さま」(歌劇『ジャンニ・スキッキ』より) |
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ほか
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