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Interview | インタビュー

小森輝彦 番外編
『ドイツに暮らす歌手のお二人に、ドイツ生活などについてお聞きしてみました』

ドイツ生活が長いお二人ですが、どうしてドイツという国へ行かれるようになったか お聞かせいただけますか?

僕はもともとドイツという国に来たかったんです、はっきりと。高校2年生の時に、割と突然オペラ歌手になると決意したんですけど、その後受験までに読んだ本に「ヒゲのおたまじゃくし世界を泳ぐ」というのがあって。これはバス歌手の岡村喬生さんがヨーロッパ生活を綴ったものなんですが、ここにリンツやケルンでの「専属歌手生活」があって、これを読んでもう「あ、僕もこれやろう」と心に決めていたようなところがありました。劇場に半ば住み込みみたいに、同じ音響の同じ小屋、同じ同僚、なじみの聴衆、こういう環境に自分を置いてみたかったんです。これがある意味で、今の劇場に来たところで「夢の達成」みたいになって、しばらくそれを味わっていましたが、今は次の段階にいくべき時期かな、とは思ってます。この岡村さんの本にミュンヘンの「ボリス・ゴドノフ」のタイトルロールをピンチ・ヒッターで歌われた時の事とかが事細かに書かれていて、ここなんかすごく興奮して読んだのをおぼえています。

文化、価値観の違いについては、いまだに苦労する事も多いです。ドイツでは「個人」がしっかりしているから、若い人でも自分の意見をすごく堂々と言いますね。協調性を大事にする日本人とは全く違う。僕は最初、回りに気を使う日本のしがらみから脱した感じがしてある種の解放感を強く持ったんですが、今はちょっと考え方が変わってきています。マイナス部分を見れば、例えば「出る杭は打たれる」という表現を使ってこの日本人のキャラクターが批判される事があるけれど、良い面もあるんではないかと。
でも、この今の考察も、ヨーロッパ文化との出会いがあって初めて出来た事です。この出会いにすごく感謝しています。

どのような“出会い”があったのか、お聞かせ願えますか。

出会いというのは、日常の中、至る所にありますね。ドイツ文化という事で言うと、何より大きな出会いはルドルフ・シュタイナーとの出会いです。アントロポゾフィー(人智学)と呼ばれる思想体系を確立した人ですが、特に美学の部分に深く感銘を受け、それ以来ゲラでも、アントロポゾフィーのコミュニティーに積極的に参加してます。シュタイナー教育というと知っている人も多いかも知れないですが、教育分野も素晴らしいです。ゲラのシュタイナー小学校設立に理事として参加したのも、そういういきさつからです。
もう一つ、忘れられない出会いは、やはり学生時代からすり切れるほど録音を聞き込んでずっと憧れの存在だった、フィッシャー=ディースカウ氏との出会いですね。ベルリン音大の授業の枠ですが、テープ審査があったりしてなかなかとってもらえないんですけど、幸運にもその枠をもらえて。リンデンアレーのご自宅にうかがったんですが、いつかディースカウ氏がレッスンの時間になって僕とピアニストが待っているのにピアノをずっと弾いていてレッスンを始めなかったらバスローブ姿の奥様(ソプラノのユリア・ヴァラディさん)が怒鳴りに来た、なんて事もありましたよ。
このディースカウ氏のレッスンはリートのレッスンだったわけですが、リートでは、本当に嘘がつけない。どこまで深く納得して歌っているかがすぐにバレてしまいます。日本人的な謙虚さで「僕なんかが自分の人格を丸出しにしていいんだろうか」なんて思いながら歌ってると、全く歌に命が入らない。でも、「俺が!」と自分のアイデンティティをごり押しするのも、自己顕示が強すぎて音楽が後退してしまう。オペラでもリートでも、ドイツの文化の中で日本人の僕がどこかで折り合いがつけられるポイントで表現者としての自我の置き場を見つけなければいけないわけですが、僕の今の気持ちとしては、「芸術の神様のしもべとしての自分を信頼する」というところです。

歌手としてだけでなく、生活人としての日常生活について聞かせて下さい。

そうですね、例えば料理は結構好きです。気分転換になるし、現実に生活の中で役立つし、実際食べる事は大好きだから。最近、文章を書く仕事が結構あるので、それでパソコンにずっと向かってると、煮詰まってきちゃって、台所で頭を空っぽにしてルーチンワークをしていると、かなり助かります。・・・てことは、ルーチンワーク程度の料理しか出来ないって事なんですけどね。こった料理は全然出来ないです。でもピザなんかは結構評判が良くて、良くレシピをくれと言われます。こねるのは機械を使っちゃいますが、ソースは手作りです。

それと結構材料にはこだわってるかも知れない。僕が住んでいるゲラ市は大都市ではないので、日本の食材の確保には結構苦労します。だしの昆布とか煮干しとかは大体日本に戻った時に買ってくるのですが、この間昆布を切らしちゃって探したんですよ。そうしたらね、 Bio-Laden(オーガニック食材店)に入浴剤として置いてあったんでびっくりしました。発売元はArcheという、ドイツのオーガニックの会社でここの醤油はすごくおいしいんです。だから勇気を出して買って、だし昆布として使ってみたら、これがまたおいしかった。でも不思議な感じです、入浴剤なんて。自分がみそ汁の具になっちゃいますよね。

最近は寒くなってきたので、暖まるもの、と思うとやっぱり僕は日本人だから、だしの味のものが一番ほっとします。うどんとか鍋とかを食べた時にお腹があったかーくなる、あの感じは洋食を食べても絶対に味わえない感じがするんですけどね・・・。例えば最近はマッシュルームのポタージュを良く作ってます。息子が好きなんでリクエストが良くでましてね。息子が牛乳アレルギーなので生クリームとかを使えないから、小麦粉をバターで炒めてスープを加えて、ブルーテをつくるところからやります。でも、いくらこれが温かいスープでもだしの味の様にお腹が温まって幸せ、という感じにならないんですよ。これは前から不思議に思ってるんです。例えばドイツ人なら同じような感じをKartoffelsuppe(ジャガイモスープ)を飲んだ時に持つんでしょうかね?いつも不思議に思ってます。

ドイツの魅力をなにかご紹介いただけますか。

ドイツに旅行に来る方におすすめしたい季節の一つが、クリスマス前のドイツですよね。段々盛り上がっていく街の雰囲気がたまらなく好きです。宗教というものが如何に深くこの社会に根ざしているかを思い知らされる時期でもあります。僕自身はクリスチャンではありませんが、前段のシュタイナー関係のキリスト者共同体に関わっている事もあって、この文化に入り込む一つのチャンスとしてのクリスマスっていう感じもしてます。
単純に、ホワイト・クリスマスは素敵だし、寒いドイツの寒さをしっかり味わう!という楽しみ方という意味でこの時期のドイツにいらっしゃるのは良いんじゃないかなぁと思います。
あとは快適な夏ですね。日本の夏は本当に暑いから・・・。
是非皆さん、一度遊びに来て下さい!

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