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Conversation | 対談

『ワルキューレ』を語る!

現在ドイツ在住で海外の劇場でも活躍のめざましい小山由美、小森輝彦が、2/20〜東京二期会オペラ劇場『ワルキューレ』に登場します。フリッカ役(小山)、ヴォータン役(小森)を務めるお二人に、『ワルキューレ』に対する意気込みを語っていただきました。

小森

お久しぶりです!

小山

2000年の二期会・新国立劇場共催公演のサロメ以来ですね。

小森

あれ以来、8年ぶりにご一緒させていただく事になりますね。どうぞよろしくお願いいたします!しかも今回は夫婦役として!前回は言って見れば姑と婿のなり損ない・・・みたいな関係だったわけですが・・・。

小山

いえいえ、ヘロディアスとヨハナーンは完全に敵同士でしたでしょう。今回のフリッカとヴォ-タンは ギリシャ神話のゼウスとヘラのように神の夫婦関係で、ワグネリアンは自分たちの夫婦のそれとよく重ねるみたいですよ!?

『サロメ』
撮影;三枝近志/提供;新国立劇場

小山由美 2008年2月3、6、9、11日
新国立劇場『サロメ』
(ヘロディアス役)出演予定!

小森

小山さんと僕で、ペアの役が出来るとなると・・・ローエングリンがありますよね?オルトルートとテルラムント、これも夫婦関係ですね。
僕のゲラの劇場での元同僚バリトン・・・僕がリゴレットでゲラにデビューした時に彼はマルッロを歌っていました・・・が今ケムニッツの専属をやっていて、伝令の役を歌った彼からも話を聞いたのですが、小山さんはケムニッツの劇場でオルトルートを歌われましたよね。二期会のブログでも大成功だったという報告を拝見しました。

小山

伝令以外は皆ゲストの歌手です。ワーグナーのオペラを上演するとなると どこの劇場も専属歌手だけでは上演できないのですね。このケムニッツのローエングリンは とても良い公演で、毎回ワーグナー協会の方々等が ハノーバーとか南ドイツ、ウイーンからも大型バスで聞きにいらっしゃって、びっくりでした。

小森

そうですか。僕も聴きに行きたいなぁ。ケムニッツはゲラから50kmくらいですもんね。今度聴きに行きます!そう言えば、僕は初めて拝見した小山さんの舞台、オルトルートでしたよ!新国立劇場のこけら落としのローエングリンです。僕はまだ留学中の一時帰国の身でひたすら羨望の眼差しで、「新国立劇場のオープンでこれから日本人によるワーグナーのプロダクションも増えてくるのかな」なんて思いながら。素晴らしかったです。

小山

ありがとうございます。この10年間で ワーグナーのメゾの役を一通り全部 歌わせて頂けたのは本当に感謝です。ワーグナーの呪縛からもう抜け出せないかなー。

『ワルキューレ』
撮影;三枝近志/提供;新国立劇場

小森

ワーグナーのメゾの役全部ですか!すごいですね!小山さんはワーグナーの「総本山」であるバイロイトでも歌ってらっしゃいますよね。なにかバイロイトでの体験談を聞かせていただけますか?

小山

そうですね。バイロイトの何が特別でしょうか。ドイツの中のオーケストラから実力とワーグナー好きの方々があつまったオーケストラの響きもそうですし、フェストシュピールハウスの音響も、プローベの作り方も、とにかくバイロイト独特ですよね。でもワーグナーの音楽と共にヴォルフガングさん中心の家族の一員のように感じられるあの雰囲気でしょうか。
7月後半から始まるバイロイトの為に5〜6月頃から練習に入るのですけれど、皆アパートを借りたり裏の森でハンモックを掛けたりしてーこれは冗談です(!)、でも本当の話、裏の森にキャンピングカーで夏の避暑代わりにしていた(?)歌手もいましたね。私なんかも自転車でフェストシュピールハウスまで毎日通っていました。でも短い間に7演目作るわけですから(全ての演目が初演でなくても)練習は半端でなかったです。いつだったか朝9時から夜8時過ぎまで、プロ-べの合間にインタビューや鬘、衣装合わせ、その他諸々食事する暇なくやっと部屋に戻ってきたら、電話が入って夜10時に舞台に音響合わせに来てくれって。11時過ぎまでワーグナーさんの音響チェックが入りましたね。GP(衣裳とオーケストラ付の舞台総稽古)までに最高のメンバーでオペラを創りあげる喜びと、なんといってもワーグナーの音楽の洗礼をあそこで受けてしまうと、その深みからもう抜け出せないです。


小森さんのワーグナー体験は?

小森

僕は声の相性とかもあると思うのですが、今まではそれほど多くないですね。ゲラで歌った「さまよえるオランダ人」のタイトルロールと、藤沢市民オペラ「リエンツィ」でのパオロ・オルシーニ役の二つです。ドイツものとしては、R.シュトラウスをたくさんやらせていただいています。小山さんとご一緒したサロメのヨハナーン、僕の「夢の役」だった「アラベラ」のマンドリカ、「インテルメッツォ」のローベルト、「ナクソス島のアリアドネ」の音楽教師・・・。やはりワーグナーとR.シュトラウスは違いますが、オケの大音響の中に「たゆたう」というか浸って全身で歌う、みたいな舞台での肉体性としてはかなり近いところがありますよね。

ワーグナー体験というとちょっと違うパターンではありますが、この間「コジマ」という新作オペラの主役ニーチェを歌いました。あの哲学者ニーチェです。そしてコジマはワーグナーの妻のコジマ。ニーチェが実際に作曲したオペラの草稿があって、ドイツ屈指の現代作曲家ジークフリート・マットゥス氏がそれを補完したオペラなんですが、コジマへの道ならぬ愛とその拒絶からくる怒り、作曲家、思想家としてのワーグナーへの愛憎半ばするニーチェの葛藤が描かれています。最後はハダカ踊りまでさせられました・・・。やはりワーグナーと関連が強いからかバイロイトの人たちも来ていましたね。ワーグナーの音楽が大編成のオーケストレーションで数多く引用されていて、ある意味でワーグナーの偉大さに裏打ちされた作品です。

ゲラ市立劇場
『さまよえるオランダ人』オランダ人役

それから、僕も実はローエングリンがあります!来年の4月にテルラムントを歌います。ゲラの新プロダクションです。ですから、ヴォータンを歌って日本から戻ったらすぐにローエングリンの立ち稽古が始まるというスケジュールですね。

ゲラ市立劇場『コジマ』(世界初演)ニーチェ役

小山

まあ素敵!ヴォータンもテルラムントも大変な役ですもの!私にはローエングリンと言うといくつか思い出があって・・・。2001年9月11日あのテロの日、ロスのホテルにいたのですが、夜のローエングリンの公演の為、午前中まだベッドにいたとき、ヘリコプターがたくさん上空を飛んで廻りが騒がしい・・・。そのうち夜はキャンセルだと電話があって初めてテレビであの飛行機が建物に突っ込む映像を観たんです。映画を観ているみたいで・・・。そして次の標的はロスだ、という噂が流れて、周りの家の人達は避難してしまって誰もいなくなって、出演者皆集まって泣きましたよ!!

小森

そうですか・・・。大変な体験をされたんですね。確かに舞台は「生もの」だから、アクシデントは付き物ですね。だからこそ一期一会だし、カタルシスみたいなものがあるのだと思うけれど。それにしてもあのテロの日にロスにいらしたとは・・・。
「生もの」である舞台での「鮮度」みたいな事を考えると、役になり切るという事はすごく大事ですよね?ローエングリンでは僕ら二人共、いわゆる「悪役」ですけど、どんなことを心がけていらっしゃいます?

小山

役になりきる事は、声の次に大事な事ですものね。演出家とプロ-べを始める前に、楽譜からまずその役の意図を汲み取る事がやっぱり1番大事ですよね。でも悪役といっても、人間の深層心理にメスを入れる役ですから、実は主人公より人間的で面白いわけです。例えばオルトルートはその当時宗教的に1人取り残されてしまった異端者、何故なら廻りの人々が皆クリスチャンにかわっていったからです。彼女からみると、エルザもローエングリンも皆、彼女の神々への裏切リ者なのです。それに対して彼女は一人で全ての策(嘘も魔術も)を持って復讐の体当たりですよね、実際舞台上の合唱、ソリスト全員を敵に回して演じる訳ですから。でもオルトルートの持っている業のようなものは、人は多かれ少なかれ持っているものだから、聴衆の人には分かりやすいし、自分ができない事をやっている悪役に“よくそこまでやった”みたいな共感もあったり・・・。

ハーゲン市立歌劇場
07年12月公演『トスカ』
【トスカ】ダグマー・ヘス
【カヴァラドッシ】
ペドロ・ヴェラスケス=ディアス
【スカルピア】小森輝彦

小森

そうですね、オルトルートの「悪役ぶり」はテルラムント以上ですからね。テルラムントでさえオルトルートに使われてしまう存在な訳ですものね。僕もバリトン、最近は特に声が重くなってきていますから悪役を演じる事が多くなってきますが、結構楽しんでやってるかもしれない。ゲラで僕をまず友人として知っているひとがスカルピアを見るとみんなその後に会うとちょっと様子が変なんですよね。話してみると、どうやら僕が舞台の上で、単なる悪役というだけでなくスカルピアみたいなサディスティックな役になり切っているのが、どうもうまく飲み込めないみたいでね。本当はこういう人なのかも知れない、とか思ってるんだとしたら、芝居がうまくいっている証拠ですけどね。ははは。

小山

ホントネ。メッゾも悪役が多いですから、それを見たイメージができているみたいですね・・・。
“意外と小山さん、ぬけているんですね。”なんて言われて初めて“あれれ、しっかりしているようにみえるの??”みたいな・・・。

小森

テルラムントに関しては、悪役といいながら弱さがある。僕はこの「人間的な弱さ」を持つ役を演じるのがすごく好きなんです。弱さが狂気につながって行く役とかはすごくカタルシスがありますね。この間のニーチェもそうだけど、リゴレットや、ヤコプ・レンツなんかもそうだった。ヨハナーンもサロメの誘惑に心が乱されるという意味ではそうですね。そしてこのテルラムントも、オルトルートに惑わされ、名誉欲の強さのあまりに我を忘れ自分の分をわきまえず失策する。この「みっともなさ」を如何にみっともなく演じるか、今からすごく楽しみです。

小山

私はどの役でも舞台の上で初めて体験するみたいに新鮮でありたいと、いつも思っています。
演じる、というより、それが自然にでる為の練習期間がとっても大切だと。

小森

そう言う意味で、さて、いよいよ今回のワルキューレですが、ヴォータン、みっともないですね、ある意味で。これもすごく楽しみなんです。ヴォータンが自分の弱さをこんなにあからさまに見せるのはワルキューレだけですから。ラインの黄金では若さゆえの欲とかはありますが、精神的に叩きのめされたりはしていない。ジークフリートではもうある意味での諦観があって、ジークフリートに契約の槍を折られた時なんかは、にやっと笑ったりする事もあり得るくらいで。
だから、ヴォータンの理想と現実の乖離、そこから来る失望、絶望を如何に見せるかで勝負が別れるんじゃないかと思ってます。・・・もちろんローウェルス氏のコンセプトがまだわかりませんから、段々と稽古場で作っていく事になりますが。
ヴォータンを絶望の底にたたき落とすのが、小山さんのフリッカというわけですね・・・。どんな風に叩きのめして下さるんでしょうか?(笑)

小山

楽しみにしていてね〜!

小森

はい。楽しみにしてます!

『ワルキューレ』を聴きにいこう!

2月20日(水) 23日(土)、東京二期会オペラ劇場公演『ワルキューレ』
小山由美(フリッカ役)、小森輝彦(ヴォータン役)が出演いたします。ぜひ会場に足をお運びください!
詳しくは、東京二期会ホームページをご覧下さい。

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