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ピックアップアーティスト Vol.27 青山 貴の今

Interview | インタビュー

2012年2月、東京二期会『ナブッコ』タイトルロールを演じ、そのヴェルディ・ヴォイスが絶賛を博した青山貴。今、その活躍が内外で注目を集めている。
ボローニャへの留学を経て、2007年9月『仮面舞踏会』レナートの華々しいデビュー以降、その深く温かみのある美声で数々のオペラ、コンサートに引く手あまたの逸材。
『コジ・ファン・トゥッテ』グリエルモや『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』ジェルモンなどでも幅広い表現力が好評を博している一方、コンサートソリストとしても活躍の場を広げ、昨年はシャルル・デュトワ指揮:NHK交響楽団による「一千人の交響曲」(マーラー)で高い評価を得た。

2012年5月15日には、若手アーティストの登竜門としても名高い、東京オペラシティリサイタルシリーズB→C(ビートゥーシー):「バッハからコンテンポラリーへ」に登場する。
このシリーズは1998年に始まり、毎年、様々な個性とバラエティに富む各ジャンルの楽器の魅力を紹介するシリーズで、声楽枠は年に1名ほどの狭き門。
過去には宮本益光(04年バリトン)、幸田浩子(05年ソプラノ)、彌勒忠史(06年カウンターテナー)、林美智子(06年、メゾゾプラノ)、望月哲也(07年テノール)、鵜木絵里(07年ソプラノ)、臼木あい(09年ソプラノ)、鈴木准(09年ヴォーカルアンサンブルBBQ)、安井陽子(2010年ソプラノ)、与那城敬(2011年バリトン)等の旬の逸材がその成果を披露し、喝采を浴びた。
若い演奏家たちが、バッハ作品と現代作品を軸に独自のプログラムを組み鎬(しのぎ)を削るこのシリーズ、2012年度も選りすぐりの10名が登場する予定だ。

東京オペラシティリサイタル 公演情報

公益財団法人 東京オペラシティ文化財団のページへリンクしています。

バッハからコンテンポラリーへ[142]
青山 貴(バリトン)

2012年5月15日[火]19:00 リサイタルホール
B→C バッハからコンテンポラリーへ

青山 貴 バリトン
ピアノ:河原忠之 * ギター:松尾俊介 **

曲目

  • J.S.バッハ:《クリスマス・オラトリオ》BWV248から *
    「大いなる主、強き王」
  • J.S.バッハ:《マタイ受難曲》BVW244から *
    「夕暮れの涼しい時に〜わが心よ、おのれを清めよ」
  • B.ブリテン:《戦争レクイエム》op. 66(1961〜62)から *
    「喇叭の音が、夕暮れの大気を悲しみに染めると」
    「破滅の日々、絶望の日々を想う者など」
  • D.ヴェントゥーリ:雨の修道士のヴォカリーズ(2007)*
  • F.メンデルスゾーン:オラトリオ《エリヤ》op.70から *
    「アブラハム、イサク、ヤコブ・イスラエルの神よ」
    「主の御言葉は火の如くならずや」
    「満ち足れり、主よわが魂を受け取り給え」
  • P.チャイコフスキー:《6つのロマンス》op.38から *
    「それは早春のことだった」
    「騒がしい舞踏会の中で」
    「ああ、もしも君がほんの一瞬でも」
  • 細川俊夫:恋歌 I(1986)**
  • 細川俊夫:2つの日本民謡(2003)**
  • M.ラヴェル:ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン・キホーテ *

東京オペラシティ文化財団  TEL.03-5353-0770

青山 貴(以下、青山):何人かでのジョイント・リサイタルの経験はありますが、このように自らテーマを決めるソロリサイタルは、実は初めてのことです。
伝統あるこのシリーズに出演出来ること、そしてバッハからコンテンポラリー作品に深く向かい合うという意味でもとても楽しみです。
私のレパートリーであり又ベースであるイタリアオペラは、今回は敢えて封印し、それ以外の初めて人前で披露するような曲にも挑戦をしてみたいと、準備を進めています。

――青山さんのソロデビューは1997年と伺っていますが。

青山:大学4年生の時、1997年の芸大「メサイア」がソロデビューと考えると、ちょうど今年で15年目を迎えます。あっという間のような気もしますが、ちょうどこのB→Cのシリーズが始まったのが98年でしたから、いつか私もこのシリーズに出演したい!という願いが叶ったという感じですね。
私が声楽をはじめたきっかけともなった、先輩の望月哲也さんもこのシリーズで素晴らしいリサイタルをなさいましたし、オペラにおいても次々に様々な作品に主演していて、僕にとっては自慢の先輩であり、よき目標でもあるんです。

――望月さんは東京藝術大学に入る前の府中西高校時代からのお付き合いなんですか。

青山:望月先輩は私が高校一年の時の高校3年生で、当時から本当に素晴らしい演奏でした。合唱が盛んな高校でしたが、特に皆が藝大に行くような際立った高校だったわけではないのですが、望月先輩が藝大に入ったことも大きな刺激となって、「僕も!」と気持を奮い立たせてくれました。

――高校に入る以前から、音楽家を目指していたんですか?

青山:いえ。中学時代はサッカーをやっていたのですが、思いがけず強い勧誘を受けて入ってしまったのが合唱部だったのです。その後音楽の道を志すようになりましたが、高校2年からピアノなど勉強を始めたので、目覚めは遅い方だと思います。
声変わりは中二の頃で、下の音が出るのでバスのパートということになりましたが、でも何しろすごく練習する部活だったので、体重は今の半分くらいでした(笑)。
合唱部といっても合唱曲ばかりではなく、なぜか独唱会で年に2〜3回オペラアリアを歌うという部の伝統があり、『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』ジェルモンの「プロバンスの海と陸」をはじめて歌ったのが高校の部活でした。そういえば、去年、各地で『椿姫』を上演し、その舞台でジェルモンのアリアを歌いながら、高校時代のことを懐かしく思い出したりしましたね。

――その頃、オペラに触れ、そして現役で藝大に合格なさっているんですね!

青山:高校3年から専門的に声楽を習い始めましたが、当時は友人や先輩の歌うのを聴く程度で、往年の歌手のオペラなど聴くようになったのは、大学に入ってからですね。

――二期会オペラ研修所マスタークラスに1年、新国立劇場オペラ研修所に3年、文化庁の在外研修でボローニャからミラノには3年半留学なさいましたね。研修は濃厚な音楽漬けの日々を送られたのでしょうか。

青山:常に勉強する環境に自分を置いておかなければと思っていました。でも新国のオペラ研修所を修了するまでは、イタリアオペラには憧れこそあれ、さほど触れる機会はなかったんですね。敢えてそれに触れずに基礎を造るというつもりもあり、モーツァルトや現代作品を歌っていました。
所定の研修を終え、さぁいよいよイタリアオペラをもう一度勉強し直したいという気持でイタリアへ旅立ったのです。
ミラノに移って、ミラノ・スカラ座では、レオ・ヌッチさんのオペラなどをよく観にいきました。

テクニックもすごいですが、声の飛び方がすごいんですよね。そんなに大きな方ではないのに、信じられないような飛んで来方をするんです。何しろ一番クリアに聴こえてくる。僕はバルコニーの安い席で遠〜くで聴いていることが殆どでしたが、ヌッチさんの声の突き抜け方、たぶんどこの席でもそうなんでしょうね。そんな神業のような演奏に、プロとはこういうものなんだなぁ、すごいなぁ〜と感心していました。

レオ・ヌッチ(ナブッコ)

2012年2月の東京二期会『ナブッコ』は、あの大役に抜擢して頂いたこともさることながら、パルマ王立歌劇場との共同制作で、まさに彼が着ていた舞台衣裳を着たんです。
歌手冥利に尽きるというか、お会いしたことはないんですが、本当に身震いするような感動を覚えました。
イタリアでは、レナート・ブルゾンさんのレッスンを受けることが出来ました。その二人の演奏からはいろいろ参考になるものが多かったと思います。

■2012年2月 東京二期会『ナブッコ』パルマ王立歌劇場提携公演

演出:ダニエレ・アバド

青山 貴(ナブッコ) 岡田昌子(アビガイッレ) 斉木健詞(ザッカリーア)
清水華澄(フェネーナ) 二期会合唱団

青山 貴(ナブッコ)

青山 貴(ナブッコ)  岡田昌子(アビガイッレ)

撮影:野村正則

――二期会では『仮面舞踏会』レナートでも一世を風靡しましたが、その後もトントン拍子のご活躍です。オラトリオなども早くから沢山歌っていらっしゃいますね。若い頃から成熟した声という印象で、本当に聴き心地の良い声、そして奥行きや広がりがあるという印象をいつも受けます。

青山:高校3年生の時から師事した鈴木寛一先生(テノール)は、「マタイ受難曲」を初めとする素晴らしいエヴァンゲリスト(福音史家)歌いですし、僕もこのようなジャンルはとても好きです。
声種は違いますが、先生からは、宗教曲、オラトリオを歌える声だと当時からおっしゃって頂きました。
今回のプログラムにもバッハ「クリスマス・オラトリオ」や「マタイ受難曲」のアリアを入れています。今回歌わせて頂くアリア“夕暮れの涼しい時に〜わが心よ、おのれを清めよ”はバッハの中で一番好きな曲です。

■2007年9月
 東京二期会
 『仮面舞踏会』

 演出:粟國 淳

左=青山 貴(レナート)
樋口達哉(リッカルド)

左=境 信博(サムエル) 中央=青山 貴(レナート) 右=畠山 茂(トム)

撮影:鍔山英次

■2006年7月 東京二期会『蝶々夫人』

演出:栗山昌良

青山 貴(公爵ヤマドリ) 大山亜紀子(蝶々さん) 泉 良平(シャープレス)
西川裕子(スズキ) 羽山晃生(ゴロー)

撮影:鍔山英次

――プログラムについて、コンテンポラリー作品の選曲についても教えてください。

青山:後半の5曲はギターの伴奏のみですごく静かな楽曲ですが、細川俊夫先生とはコンサートで一度ご一緒させて頂いたことがあり、曲目を選ぶ中で、ダイナミックな部分と対極にある曲をと考えた時に、脳裏に浮かんだのが、細川先生の曲でした。もともとソプラノの為に書かれた曲を歌わせて頂きます。
後半の5曲(細川俊夫:恋歌 I(1986)3曲と2つの日本民謡(2003))は、ギターの伴奏のみですごく静かな編曲ですが、集中力を要求される見事な静謐さがとても美しく、これまで自分がやったことがない世界にもぜひ挑戦してみたいですね。この曲は過去には平松英子さんやエルンスト・ヘフリガーさん、半田美和子さん等が歌っています。
実は半田美和子さんも府中西高の先輩でもあり、最近、憧れの半田先輩とはジョイント・リサイタルでご一緒させて頂きました。また、この選曲にあたり楽譜をお借りしたり、移調の事などいろいろと相談に乗って頂き本当に有難かったです。
今回はソプラノの曲ですが原曲を生かし1オクターブ下げて歌い、最後の一曲だけ移調して歌うというかたちをとっています。
今を生きる演奏家として、こうしたコンテンポラリー作品に取り組むことも音楽家としての大きな務めでもあり、わくわくする経験です。

今後のレパートリー

――男性ユニット「IL DEVU」の活動や新国立劇場では夏に高校生のためのオペラ鑑賞教室『ラ・ボエーム』マルチェッロなど、楽しみな公演が続きますが、今後、オペラではどんな役を演じてみたいですか。 

青山:イタリアものに拘らず、『魔笛』パパゲーノ、『フィガロの結婚』の伯爵やフィガロ、『コジ・ファン・トゥッテ』グリエルモなど、自分の実年齢に近いような役柄も積極的に演じてゆきたいですね。

「IL DEVU」 の活動について