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ピックアップアーティスト Vol.21 秋葉京子の今

Interview | インタビュー

来る6月16日(木)[※1]二期会ゴールデンコンサートin津田ホールに登場する国際的メゾソプラノ秋葉京子さん。現在も後進の指導にあたりつつ、さらなる芸術の道を歩み続けている。深々とした声の響きは聴く人の心を魅了してやまない。


――秋葉さんの音楽との出会いを聞かせてください。

「父がレコードを集めていて、幼い頃から家にはクラシック音楽が流れていました。小学2年生のときにピアノを習い始めたのですが、実はその先生が声楽科のご出身だったのです。先生のお宅で春に開かれた発表会のとき、今までピアノの先生だと思っていたのに、〈ゆりかごの唄〉を歌って下さいました。その情景は今でもはっきりと思い出せます。先生のお庭には静かな池があって、その季節には藤の花がいっせいに花ひらいていました。そんな情景とあいまって、先生の歌はほんとうにきれいだなあと感動したのです。
 自分自身が声楽の手ほどきを受けたのは中学3年生。そして、高校2年生のときに全日本学生音楽コンクールで声楽部門第1位をいただきました。共立講堂で歌ったことが思い出されます」

芸大大学院時代には二期会会員となり、若くして二期会オペラ『リゴレット』のマッダレーナとジョヴァンナに抜擢された。文化庁の青少年芸術劇場では欧州でも持ち役となる『カルメン』のタイトルロールで全国10ヶ所の舞台を踏む。華々しいデビューを飾って程なく、当時の国際的スター、大橋國一(おおはし・くにかず:1931-74)氏の推挙もありケルンに留学した。

――留学してそのまま劇場の専属に、という経歴ですが、
最初から劇場に入るつもりで渡独したのでしょうか。

「最初はそんなことは考えていなかったのです。たまたまザルツブルクのサマーアカデミーでの演奏会で、私の歌唱を聴いていた人の中に、イアン・ホレンダーさん(ウィーン国立劇場総監督として長年活躍された)がいらっしゃったのです。演奏後に声をかけていただいてお褒めの言葉をいただけました。実はそのとき、彼はブラウンシュバイク国立劇場の『フィガロの結婚』のケルビーノ役をさがされていて、すぐに私を推挙くださいました。それが契機で劇場と専属契約を結ぶことになったのです。

そして、欧州での本格的な活躍が始まる。1980年からブラウンシュバイク国立劇場、84年からオルデンブルク国立劇場、そして91年からシュレースヴィッヒ・ホルシュライン州立フレンスブルク劇場と専属契約を結び、日本人としては希有な舞台実績を残した。

1981年 ブラウンシュバイク劇場 ツィッカー『チリの地震』(ドイツ初演) ペピータ 作曲家から直筆のメッセージ
1986年 ミュンスター劇場 ヴェルディ『ドン・カルロ』 エボリ役で出演の頃 ※ミュンスター大聖堂の前で
1987年 オルデンブルク国立劇場 R.シュトラウス『サロメ』 ヘロディアス
1987年 オルデンブルク国立劇場 ビゼー『カルメン』 タイトルロール
1988年 オルデンブルク国立劇場 ビゼー『カルメン』 タイトルロール
1991年 フレンスブルク劇場 ロッシーニ『愛の試練』 クラリッサ
1995年 二期会オペラ プッチーニ 『修道女アンジェリカ』 侯爵夫人

オペラに出演しながらも、NHK交響楽団、東京都交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団等主要オーケストラに度々招かれ、バッハ「マタイ受難曲」モーツァルト「レクイエム」、ベートーヴェン「第九」等数多のコンサートに出演してきた。とりわけマーラーにおいては、「嘆きのうた」、「亡き子をしのぶ歌」、「子供の不思議な角笛」、「大地の歌」、「千人の交響曲」等で大いなる賞賛を得ており、他に抜きんでた実績を残している。

聴きどころ リスト〜マーラー〜R.シュトラウス

秋葉さんの「今」を聴く絶好の機会となる6月16日[※1]の二期会ゴールデンコンサート。今回のプログラムの聴きどころについてお話しください。

「リストは今年生誕200年のメモリアル・イヤーですのでぜひ取り上げたいと思いました。彼の歌曲は転調がすばらしく、演奏して思うのは、その後のシュトラウスやヴォルフに多大な影響を与えておりますから、最初に歌うのにふさわしいと思ったのです」[※2]

続くマーラーの「リュッケルトの詩による5つの歌」。マーラーの歌唱では秋葉さんは日本の代表的存在ですが、マーラーの音楽を秋葉さんはどのようにイメージしているのでしょうか。

「これはマーラー音楽の特徴だと思いますが、そこには、ほんとうにシンプルで美しいものと、濃厚で複雑なものが混在しています。『リュッケルトの詩による5つの歌』の場合、水彩画のような〈私はほのかな香りをかいだ〉から始まり、次第に色が深く濃くまるでブリューゲルの油絵のようになっていき、最後の〈真夜中〉に至っては、もう漆黒の世界。宇宙の暗黒をも感じさせる、スケールの大きな黒です」

後半はR.シュトラウス。マーラーの〈真夜中〉から、R.シュトラウスの〈夜〉へと引き継ぐ、というような冒頭の意図があるように思えますが、どのようなプログラムでしょうか。

「前半のプログラムが少し重いので、後半は有名な歌曲も入れて聴きやすいものにしたいと思いました。リラックスして聴いていただければ。重いものばかりだと、肩が凝るでしょ。
 そして、後半は何か物語性があるような曲順を考えています。曲想を追って想像していただければと思います。リストのときにいったような転調の妙がシュトラウスにしっかりと受け継がれていることも聴いてほしい」

曲想というと、後半はゆったりとした曲が並んでいます。

「本当なら、テンポの早い曲も入れたほうがドラマティックで飽きさせないんでしょう。でも、今度のリサイタルでは、お客様に自然で安らいだ気持ちになっていただきたいので」

今回のリサイタルのリーフレットに「深く芳醇な響き」とありますが、まさに深々としたアルトの響きが堪能できるプログラムですね。

最後に、秋葉さんの「今」とは?

「私の人生には様々な試練がありましたし、大きな怪我も経験しました。大変だった時期もありましたが、走り続けてきて、おかげさまで今は気力、体力が充実しています。今は自然の呼吸が大切だと思います。声楽家の仕事というのは決して派手に人の耳目をひくことばかりを目的としていません。そんなところにも私は魅力を感じます。  今も昔もとにかく私は歌うことが大好きで、歌うことが命そのもの。歌うことを通して、深い息遣いが自然へとつながる、地球や宇宙の呼吸とつながるような……私は幼い頃から宇宙のことを考えるのが好きでした。宇宙のはじまりのことを考えていると、今こうして一瞬でも生まれてきたことがとても幸運に思えてきて、世の不当にいちいち悩んだりすることがなんてちっぽけなんだろうと思います。そんな想いをこめて歌います」

まさに壮大なメッセージですね。リサイタルを楽しみにしています。

秋葉京子の 今 を聴く!二期会ゴールデンコンサート Vol.32 秋葉京子(メゾソプラノ)海外での圧倒的なキャリアを誇る二期会のメゾソプラノ秋葉京子。深く芳醇な響きに酔うひととき。日時:2011年6月16日(木曜日)  19:00開演(18:30開場)[※1] 会場:津田ホール(JR千駄ヶ谷駅前/都営大江戸線国立競技場駅A4出口前)

[※1]…本演奏会は当初2011年3月26日(土)開催予定でしたが、震災の影響により上記の日程に開催が延期となりました。

[※2]…本演奏会は当初、プログラムの一部にリスト作曲の作品を予定しておりましたが、都合によりシューマン作曲の作品に変更させていただきます。何卒ご了承ください。
(予定曲詳細は上記演奏会ページへのリンクからご覧ください)

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