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Interview | インタビュー

2001年『ホフマン物語』で鮮烈な二期会オペラ・デビュー以来、引く手あまたの活躍でオペラの舞台に立ち続けてきたテノール高橋淳。2010年2月27日〔土〕の二期会ゴールデンコンサートは、初めての本格的なソロ・リサイタルとなりました。
オペラでは、際立つ個性と圧倒的な声の魅力で存在感を示している高橋が、リサイタルで選んだのは、オール・ドイツ・ロマン派プログラム。テーマは、「創造」。

リサイタルに賭ける高橋淳の想いを、彼の音楽の原点を探りながらご紹介いたします。


東京二期会『皇帝ティトの慈悲』
はじまりは、トロンボーン Q いつ頃声楽家を志したのでしょうか。

声楽の道を選んだのは、実は音大に入ってからのことです。
中学、高校時代は、吹奏楽部でトロンボーンを吹いていました。
中学校で吹奏楽部に入部すると、他の友達は自分のやりたい楽器の希望を言っているのに、なぜか私だけは、先輩から半ば強制的に「君はトロンボーンだ!」と。
これが音楽の楽しさ、素晴らしさにハマる第一歩でした。それからというもの、「惑星」、「展覧会の絵」、「インヴェクタ序曲」、「アルヴァマー序曲」といった吹奏楽の名曲をみんなで練習し、演奏を作りあげる楽しさを覚えたのです。

トロンボーンを一生懸命練習している私を認めてくださったのは、顧問の先生でした。「埼玉県立大宮光陵高校に音楽科ができるから、トロンボーンで受けてみなさい」
それは本当にすばらしい導きだったと感謝しています。決心して受けた音楽科に合格し、ますますトロンボーンに熱中していきました。


東京二期会『皇帝ティトの慈悲』

高校時代に出会ったのは、宮下宣子先生(新日本フィルハーモニー交響楽団)です。先生からは、演奏技術だけではなく、音楽の作り方、奏者どうしのコミュニケーションの取り方、演奏家としてのあり方といった様々なことを学ばせていただきました。いわば「演奏作りのイロハ」を、先生から教わることができました。
また、先生の影響でオーケストラ・コンサートに行く機会も増えました。生で聴くプロのオーケストラの美しさに感激する日々でした。これは昔も今も変わりませんね。

音楽の世界で生きている自分を振り返ると、何より、人との出会いに恵まれた、とつくづく思います。中学、高校時代に素晴らしい先生と出会えましたので、当時は、私も音楽教師になって生徒たちに伝えていきたい、と思っていました。

声楽の道へ Q 声楽の勉強は始めていなかったのですか?

歌を薦められることがないわけではありませんでしたが、本格的な勉強はしていませんでした。
中学の時は、NHK全国音楽コンクールの地区大会に出るため、夏休みだけ合唱部に混じって歌っていました。声は大きかったです(笑)。

東京音楽大学も、最初はトロンボーン科に入学しました。ただ、環境が変わったこの頃から、少しずつ自分の中でも変化が起こり始めていました。
音大に入り、現実的に音楽を職業とする自分を思い描くとき、トロンボーンのままでは自分の思い通りの将来が描けないのではないかと思うようになりました。また、楽器の吹けない時期も経験しました。
そんなとき思い出されてきたのが、中学の時の合唱コンクールでした。そして、大学で合唱の授業を履修し、声楽科の学生に混じってプロのオーケストラと共演したとき、まさに「これだ!」と確信しました。歌ならもっと自分自身を表現できる、と思えたのです。今でも師匠である、合唱指導をしていた篠崎義昭先生に相談をしたところ、師事することを快諾してくださいました。

Q そして、声楽科で再入学することになるのですね。今振り返って、思われることはありますか。

高校生までの自分の生き方は、自分で進路を決めているようでいて、実は人から薦められたり、誘われたり、導かれたりした方向に従っているようなところがありました。その意味では本当に私はまわりの人に恵まれていた、とあらためて思います。しかし、人間は、どこかの時点で、「自分で決める」というということをしなければならないのだとも思います。その最初の決断が、私の場合は大学1年の時、「声楽を目指す」というものだったのかもしれません。

Q 中学でトロンボーンと合唱に出会い、高校でオーケストラを聴き、大学でオーケストラと合唱で共演する機会を得て、自分の進路を決定したということですね。その後、大学院を修了して二期会オペラ研修所を経て、ほどなく高橋さんの驚くべき多才なレパートリーによるオペラ歌手人生が始まります。研修所とその後の歌手生活を振り返っていかがですか。

NISSAY OPERA 2008 / 東京二期会
『マクロプロス家の事』

二期会オペラ研修所は、まさにオペラ歌手の即戦力を養成するところでした。故伊藤叔先生はじめ多くの先生方にオペラの現場に直結する指導を受け、そして、また43期同期の仲間たち(※木下美穂子、菊地美奈、安井陽子、望月哲也、村林徹也など)と文字通り切磋琢磨する日々を過ごしました。

これまでの歌手生活は、幸せというほかありません。人に恵まれましたし、自分はチャンスにも恵まれていたと思います。研修所を出たときには新国立劇場があり、東京二期会が創立50周年を迎えようとしていましたから。
新国立劇場では、現代作品を含めて様々なレパートリーを広げることができました。また、劇場のシステム、なかば公用語となっているドイツ語で進められる稽古、歌手としてのコンディション調整など、実践の中で蓄えていけるものがたくさんありました。

初のソロ・リサイタル Q 高橋さんは、今度のリサイタルを、自身のキャリアの中でどのように位置づけるのでしょうか。

2001年『ホフマン物語』に出演以来、演奏会形式も含めて多くのオペラに出演させていただきました。今、もう一度自分の原点でもある歌曲の世界に立ち戻り、心新たに取り組みたいと感じています。自分の歌の世界を広げるという意味でも、音楽の扱いについてより丁寧に繊細にするためという意味でも。

Q チラシの真ん中に「創造」と書かれています。
どのような意味を込めたのでしょうか。

リサイタルの前半はシューマン「詩人の恋」です。大学院の研究テーマでした。本格的に取り組むのは、ほぼその時以来です。だから、「創造」の最初の意味は、温故知新というか、自分の原点に立ち戻って創造性を喚起するという意味で解していただければと思います。
私がこの歌曲集の好きなところは、何よりハイネの詩です。そして、シューマンの音楽は、ハイネの言葉と見事に融合して、実に色彩豊かで、一曲一曲がまるで絵画のように思われます。

R.シュトラウスの歌曲も学生時代から大切に歌い続けてきた作品です。今、実際に『サロメ』や『ばらの騎士』や『ナクソス島のアリアドネ』などの舞台を経験してから、あらためてこれらの歌曲をながめると、オーケストラの演奏を意識してピアノパートが書かれています。シューマンの音楽と比較して言うならば、シュトラウスのそれは背景が広いといいますか、歌い手は、まるで劇場舞台にいるように豊かな音の響きに包まれて歌っている感覚があります。

そして、ワーグナーの2つの曲は、今回初めて挑戦するものです。ここでは新しく「創造」するという意味での「創造」です。ワーグナーの楽劇は、とかくそのスケールの壮大さに、目も耳も奪われがちですが、実は内省的で、室内楽的な音楽という側面もあると思うのです。音と音の絡み具合やドイツ語の語感の扱い方など、実に繊細です。だからこそ、ドイツ歌曲を歌った最後に、ワーグナーを歌う意義は大きいと思っています。大劇場ではなく室内楽ホールで聴くワーグナーだからこそ、お客様にも伝えられる魅力があります。その役割が十全に果たせるように、歌いたいと思います。

初ソロ・リサイタルは満員のお客様の中、無事終了しました。ありがとうございました。東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』

■公演を終えた高橋淳からのメッセージ■

満員御礼!!

  二期会ゴールデンコンサート in 津田ホールVOL.28

  高橋 淳(テノール)×ドイツ・ロマンティシズム 「創造」

 去る2月27日、お蔭様で不肖私の出演させていただいた、二期会ゴールデンコンサートは無事終了いたしました。足をお運びくださったお客様には、心より御礼申し上げます。ホールいっぱいのお客様をお迎えして演奏ができたことは、初リサイタルとなる私にとって何より心強いことで、望外の幸せでした。
 ただ、チケットが公演前に完売となったため、一部の方にはチケットをご提供することができなかったことをお詫び申し上げます。
 二期会会員となってからは圧倒的にオペラでの出演が多く、なかなかリサイタルを開くタイミングをつかむことができませんでした。しかし、今回こうしてゴールデンコンサートにおける出演者の一人として加えていただいたことで、リサイタルをすることができただけでなく、このたびの演奏を通じて学ぶことが実にたくさんありました。そしてリハーサルから本番まですばらしいピアノで私を導いてくださった山田武彦さんに、重ねて感謝申し上げます。
 ドイツリートの巨匠、D.フィッシャー=ディースカウは、リートにおいて膨大な数の演奏・録音を行う一方で、オペラにおいても目覚しい活躍を遂げました。また「オペラへの出演と歌曲の演奏を両立していくことは、車の両輪のようなものであり、歌手として息の長い活動をしていくために必要なことだ」・・・・これは我が師・篠崎義昭先生がおっしゃったことです。
 この教えを守るべく、私の声、キャラクターに適うオペラへの出演と並行して、ドイツリートのみならず歌曲全般でのいっそうの研鑽を深め、演奏の機会を作っていくつもりです。さらには、リサイタルで歌わせていただいた、ワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』にまた出演することが私の夢です(できることならワルター役で!)。二期会、新国立劇場での公演で‘Wach auf!’のコラールを歌ったときの、身震いするほどの感激をまた味わってみたいです。
 キャリアを重ねつつも新たな側面を出していけるよう努めてまいりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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