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Interview | インタビュー

聴くものの心を融かすオペラ界のミューズ
幸田 浩子インタビュー

モーツァルトについて

―――2月20日にリリースされたソロアルバムは、オールモーツァルトプログラム、レコーディングはモーツァルトゆかり縁の地チェコ、プラハの伝統ある名ホール「ルドルフィヌム」、演奏もプラハ・フィルハーモニアでというこだわりもさることながら、幸田浩子さんの〈声〉が、キラキラとしたオーラを放ち、また時に流麗に情熱的にモーツァルトの音楽に寄り添って、本当に聴く者にとって贅沢な企画ですね。これだけのレパートリーをコロラトゥーラの高い技術を全く損なうことなく、けれども硬質で機械的な印象を全く受けることのない幸田さんの類稀な才能と演奏に感服します。幸田さんにとってモーツァルトとはやはり特別な存在なのでしょうか。

 子どもの頃からいつもモーツァルトの音楽が傍らにありました。さまざまな曲を歌いながらも私の音楽の基にはいつもモーツァルトがあり、またモーツァルトに回帰してくるような気がしています。今回のレコーディングはありがたいことにプロデューサーの方にあなたの一番歌いたい、好きな曲を、とおっしゃっていただいたので「モーツァルトでお願いします」とリクエストし選曲もさせて頂きました。それでも入りきれなかった曲がまだまだたくさんあるんです。
モーツァルトはシンプルで、エレガントで、官能的で…。人生の全てがそこにあるような気がします。

"ベルトラムカ荘"で感じたモーツァルトの息吹

―――ホームページにあるプロモーションビデオで『ドン・ジョヴァンニ』のツェルリーナのアリアを歌っていらっしゃる場面は、緑が美しいですが、あの場所はベルトラムカ荘ですか。CDブックレットの中にあった窓辺にもたれる素敵な写真が印象的でした。

 はい。モーツァルトが夏の別荘として使っていて『ドン・ジョヴァンニ』の序曲を書き上げた"ベルトラムカ荘"で撮影をさせて頂きました。今は館(やかた)は博物館になっていて、モーツァルトの髪の毛なども展示してあるのですが、その庭では子どもたちが元気に遊んでいたり、モーツァルトの時代がかけ離れたものでなく身近な存在として息づいているのを感じられたことも嬉しかったですね。

 録音会場はあたたかくてやわらかい響きで、誠実で真摯なプラハ・フィルの音とエネルギッシュな若きマエストロ・フルーシャ、沢山の方々のサポートのもと、モーツァルトの音楽に包まれて、本当に幸せな時間を経験することができました。
オーケストラの皆さんと、さまざまなコミュニケーションが生まれ、互いに呼応しながら音楽が変化してゆく…。たとえば、レコーディングの際、コンサートアリアのソロ・オーボエパートを、最初オーボエ奏者の方が端正に演奏してくださっていたのですが、「あなたがドン・ジョヴァンニで私がツェルリーナかも」なんて言うとフワーっと官能的に誘うようなフレーズを吹いてくださる。そうするとこちらの歌い方も変わってくる。そういう瞬間が妙味だなぁと…。

ウィーン・フォルクスオーパーの専属歌手として

―――幸田さんは文化庁派遣の在外研修員としてボローニャに渡り、数々の国際コンクールで認められ、その後は長くイタリアに住んで、ベッリーニ大劇場やローマ国立歌劇場をはじめとするヨーロッパの主要な歌劇場で活躍なさいましたが、ウィーン・フォルクスオーパーの専属歌手として3シーズンをウィーンで過ごされました。イタリア語圏からドイツ語圏へ移られて大変ではありませんでしたか。
また、フォルクス・オーパーの専属歌手を経験して感じたこととは何ですか。

ウィーン・フォルクス・オーパー『ペンザンスの海賊』メイベル

イタリアに住んでいたころから、モーツァルトやR.シュトラウスを勉強するために、いつかはウィーンに住んでみたいなあ、と思っていましたので、フォルクス・オーパーからお話を頂いた時は、迷わず飛び込みました。
フォルクスでは大勢のスタッフの皆さんと時間をかけて、自分たちの劇場のレパートリーを創ることのすばらしさを体感し、"自分たちの劇場"を愛してくださる地元のお客様に囲まれ、公演の無い日もボディテクニックや舞台語発音のレッスンに通ったり、他の演目を観に行ったり、まさに劇場漬けな日々。その中で劇場と生活が密着し、演奏が何か特別のことではなく日常の自然なこととして体験できたことは、私の演奏家人生にとって大きな実りをもたらしたと感じています。

ウィーンではモーツァルトと店子(たなこ)つながり

―――ウィーンのお住まいにも何か逸話がおありとか。

 私がウィーンで住んでいた家の大家さんは、そのご先祖様が、モーツァルトの生家の大家さんだったということもあって、なんだかモーツァルトがより身近に感じられて.…。シューベルトの生家やベートーヴェンのエロイカハウスなども近く、音楽の歴史に彩られた場所で数年間を過ごせたことは、テクニカルなことを学ぶ以上に貴重な体験となりました。

近況と今後、歌いたい役柄

―――今年もびわ湖ホール、神奈川県民ホールでの、アンドレアス・ホモキ演出『ばらの騎士』ゾフィー、6月には東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』ツェルビネッタ等、オペラ出演が続きますが、こうした幸田さんの当たり役を何度目かで歌われる際の心境の変化がおありでしょうか。

そうですね。年齢と経験を重ねて、すばらしい指揮者、演出家、共演者とご一緒させていただいて、作品への想いはどんどん深くなっていきます。たとえば、『ばらの騎士』の場合、前回ゾフィーのオクタヴィアンへの真摯な想いを伝えようとしていましたが、今回は、オペラ全体の中でのゾフィーの役割というものを客観的にとらえ舞台に立ちたいと思っています。

大好きなツェルビネッタをまた歌うことができるのは、なにより幸せです。恋多き陽気なツェルビネッタの内面に隠れている豊かな感情の機微、優しさや哀しみを、今回自分がどう感じるのか、お客様にどう感じていただけるのか、いまからとても待ち遠しく、楽しみです。

昔からシェークスピア作品が好きなのですが、アンブロワーズ・トマ作曲の『ハムレット』オフェーリアは、本当に水の中を歌いながら流されてゆくような演出で歌ってみたいですね。

新国立劇場/二期会『ナクソス島のアリアドネ』ツェルビネッタ

心弾む春のリサイタルとラジオパーソナリティ

―――4月18日(金)には紀尾井ホールで、五島記念文化賞受賞オペラ新人賞研修帰国記念リサイタルもなさいますね。ピアノと編曲を山田武彦さん、そして豪華8名のN響メンバーの方々とも共演ということで、楽しみです。4月からは毎週金曜日のNHK-FM「気ままにクラシック」のパーソナリティとして出演なさるそうですね。

 4月のリサイタルは‘まろさん’の愛称で親しまれていらっしゃるN響の第一コンサートマスター 篠崎史紀さんをはじめとする豪華なメンバーと共に、モーツァルトとR.シュトラウスの世界を演奏いたします。春の宵、ぜひ聴きにいらしてくださいませ。

ラジオのパーソナリティもはじめての経験ですが、パートナーである笑福亭笑瓶さんの胸をお借りして、一年間がんばりたいと思います。リスナーの方と一緒に創りあげていく、やわらかいクラシック番組なので、皆さまからのおはがき・ファックスお待ちしています。

〈リサイタル〉
■2008年4月18日(金)19時
五島記念文化賞記念/幸田浩子ソプラノ・リサイタル(N響メンバーとともに)
会場:紀尾井ホール
〈RADIO〉
■NHK-FM「気ままにクラシック」
放送日 / 毎週金曜 14:00〜 ※再放送 毎週月曜 7:20〜
出演 / 笑福亭笑瓶、幸田浩子

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