東京二期会が誇る、人気・実力派、若手からベテランまで15名のアーティストによる、珠玉のオペラ・アリアや声楽曲をお楽しみください!
現在、X(旧ツイッター)で出演者を紹介中ですが、4人目にご紹介するメゾソプラノ加納悦子は、海外の劇場でも活躍を重ねてきた二期会アーティストの一人。
今回のサマーコンサートでは、ヘンデル『ジューリオ・チェーザレ』より"抜け目のない狩人は" を演奏いたします。
今日はそんな彼女から、海外で共演したとある歌手の舞台裏でのエピソードを寄稿いただいたので、ご紹介いたします。
加納悦子(メゾソプラノ)
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「ディーヴァの本番前のルーティン」
オランダのオペラハウスといえば、最大都市アムステルダムのナショナル・オペラが有名ですが、もう一つ、ライスオペラ(Nederlandse Reisopera)というカンパニーがあって、国際的にはDutch Touring Opera 、つまり「オランダ旅オペラ」というわけで、その名の通り、オランダ各地を巡業していくオペラカンパニーです。オランダ最東のエンスヘーデという小さな町に本拠地を置き、そこで練習して完成させたオペラを、出演者やスタッフ自ら各都市に出向いて行って公演を行うのです。私もかつてこのカンパニーと共に多くのオペラに出演した経験があります。今でこそ日本でも新国立劇場の引越公演が札幌であったりして意外ではありませんが、当時(30年くらい前)ではそのようなお話しはあまり聞いたことがなく、ドイツの歌劇場でもその拠点都市の公演に観たい人が出掛けていって鑑賞するのが当たり前だったので、旅オペラというやり方は私にとって新鮮でした。
「こちらから出向いていく」というのは一見便利そうなのですが、やるほうはとても大変です。オランダはご存じの通り小さな平地の国なので、遠い町でも車で4時間くらいで行くことはできますが、大道具・小道具や衣装などを毎回一切合財エンスヘーデの倉庫から運んで、舞台セットをあっという間に組み立てて、出演者は前日か当日に大型バスで行って、公演が終わったら夜中でも再びバスで戻り、一日二日休んでまた遠征していくというハードスケジュールを、一つのプロダクションについて10回くらい繰り返すので、慣れるまでは疲れました。でも、これもルーティン化すると、少しは楽しくこなすことはできます。何より、多くの特色ある街並みを見られたのは良い経験でした。
さて、やっとここで本当のルーティンのお話しをします。このライスオペラの多くの演目の中で、「サロメ」(R.シュトラウス)に出演したことがあります。この公演の演出は日本でも馴染み深いヴィリー・デッカー氏によるもので、二期会でも2019年に同じ演出の「サロメ」が上演されたのでご覧になった方もあるかもしれません。舞台がすべて階段になっていて、全員の登場人物が常に舞台上にいるという演出です。そしてなんといっても、20人近い歌手に加えてその他の俳優もすべてグレー系のズボッとしたフェルト生地衣装を身に着け(舞台上で異様に暑いです)、極めつけは全員髪の毛のない(禿げ頭)で白い顔であるという、ある意味挑戦的な舞台でした。それにはデッカーさんの特別な意図があるのですが、そのお話しは「ルーティン」と関係がないので割愛するとして、そのときは階段の昇降も相まってとても体力が必要だったので、特に主役のサロメ役がどれだけ大変だったかは想像に難くありません。
ヴィリー・デッカー演出『サロメ』(2019年 東京二期会公演より)
そして、表題サロメ役を当たり役としていた、あるアメリカのソプラノ歌手の本番前のルーティンを私は今でも忘れることができません。R.シュトラウス「狂気の娘・サロメ」を絵に描いたような素晴らしいパフォーマンスと、その仕事ぶりも極めてプロフェッショナルで無駄がなく、正にプロ歌手の鑑のような印象でありましたが、それと同じくらい私の記憶に残っているのが、その彼女の本番前のルーティンです。
この体力・気力的に厳しいオペラ公演の主役を最高のパフォーマンスで乗り切るために毎回彼女がしていたことは「上演開始前のメイクの時に、茹でてオリーブオイルを絡めただけのパスタを一人前食べる」というものでした。美しいブロンドの髪をきつくアップにさせられて透明のビニールでぴったりと包まれたうえに、頭だけでなく顔にも首にもすべて真っ白のドーランを塗られながら、彼女は鏡の中の自分を上目遣いに厳しく見つめ、ソースのかかっていないパスタを黙々と食べていました。(ソースをかけると、余計な油で消化に悪いからだそうです。)
メイク室の彼女の周りだけ誰も近づけないような鬼迫が漲り、その時の光景は私の古い記憶の中に全く劣化することなく残り続けています。なぜわざわざメイクの際に食べていたのかは分かりませんが、恐らく開演時間から逆算して、食べたパスタのエネルギーがちょうど上演の最中に発揮できるように考えられたのではないでしょうか。毎回異なる遠征先の劇場の食堂のコックさんにメニューにないパスタを注文し忘れないこと一つとっても、手間のかかるルーティンですね。もちろん、彼女が終演後やお休みの日に私たちとご飯を食べたりお酒を飲みに来たことはありませんでした。
あぁオペラって大変だぁ!!
加納悦子 記
ラショナル・ライスオペラ R.シュトラウス『サロメ』
加納悦子(ヘロディアスの小姓役) メイク室にて(2枚とも)
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公演チラシ(PDF) | ■■■ 公演情報 ■■■ 二期会サマーコンサート2024 ~珠玉のオペラ・アリアと声楽曲の夕べ~ 日時:2024年8月3日(土) 18:00開演(17:30開場) 会場:渋谷区文化総合センター4F さくらホール (JR「渋谷駅」南改札西口より徒歩5分) 料金:(全席指定・税込) 一般¥5,000、愛好会会員¥4,000、学生¥2,000 《チケット発売中》 ◆何枚でもお得にお求めいただける「二期会オペラ愛好会」に是非ご入会ください! |
・二期会サマーコンサート2024 ~珠玉のオペラ・アリアと声楽曲の夕べ~ - 東京二期会
主催:公益財団法人東京二期会
●お問合せ・ご予約:二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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