7月公演 ワーグナー『パルジファル』~アムフォルタス役 黒田 博インタビュー「生き地獄を彷徨うようなアムフォルタスを演じるのは、快感(!?)」

開幕まであと5日! 二期会創立70周年記念公演、ワーグナー『パルジファル』キャスト・インタビューもいよいよ今回が最終回となります。
最後を飾るのは、アムフォルタス役のバリトン黒田 博。颯爽とした舞台姿に、力強い歌声と繊細な表現力をもって、国内第一線の活躍を続けてきた、日本を代表する屈指のバリトンのひとりです。
東京二期会のワーグナー公演においても、創立50周年記念公演『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ハンス・ザックス、60周年記念『パルジファル』アムフォルタスと最重要の舞台で主役を担ってきました。近年も、『魔笛』パパゲーノ、『セビリアの理髪師』バルトロなど軽妙さをもった役から、『トスカ』スカルピア、『ファルスタッフ』題名役などイタリアオペラ、そして『フィデリオ』フェルナンドなどドイツオペラと縦横無尽の活躍を続けています。
そして、今回10年ぶりとなるアムフォルタス。公演に向けて話を聞きました。

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2012年9月 二期会創立60周年記念 東京二期会オペラ劇場『パルジファル』より アムフォルタス役

――創立60周年記念公演に続いてのアムフォルタス役ですが、どのような人物でしょうか

黒田: とても難しいですけれども、とてもやりがいのある役です。精神的にも身体的にも傷を負って、贖われることのない罪を一生背負い続けています。アムフォルタスにとって、おそらく唯一の安らぎを見出す方法は「死」のみ。ですが、彼は、王として、自らの死が、他の人々の悩み、苦しみとなることを知っているので、「生き続けなければいけない」。そのように、生き地獄をずっと彷徨い続けているのがアムフォルタスです。

――稽古とはいえ、何度も演じ続けるのも苦しいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

黒田: アムフォルタスの、そうした内面のねじれた感情を、ワーグナーはそのまま音楽で描き切っているのですね。それを歌っていると、本当に、この身がよじれる思いがいたします。
苦しいんですけれど、しかし、ワーグナーの音楽に身を置く、または身を委ねることに、ある種の快感を覚えます。表現者として、ストレートな感情ではなく、心の奥底からえぐられるような、聖と俗とにねじられるような想いを歌うというのは、やはり面白いと思いますし、バリトンという声種ならではの役とも思いますね。

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2015年7月 東京二期会オペラ劇場『魔笛』より パパゲーノ役

――昨年の7月はヴェルディ最後の作品『ファルスタッフ』に題名役で出演しました。ヴェルディ、ワーグナーという2大巨頭の最後の作品に携わってみて、どのように感じられたでしょうか。

黒田: すべての作曲家の最後の作品がいいものとなるかどうかは、また違うと思いますが、このヴェルディ、ワーグナーにとっては、最終到達点というか、すばらしいものに違いありません。
昨年のロラン・ペリーさん演出の『ファルスタッフ』では、ファルスタッフは、ただの飲んだくれの太っちょのジジイというだけではなく、若い時分はもっとイカしていたであろう男が、人生でいろんな経験をして、最後に「人間なんてしょせんこんなもんじゃんか」と笑い飛ばしている。
ファルスタッフは悪人として懲らしめられるのですが、全然悪人ではなくて、むしろとても人間らしいのです。僕からしたら、ファルスタッフのような人間が一番「まとも」に見えます。いったい、彼のどこが悪いの?
ヴェルディには初期や中期にもたくさんの素晴らしい作品がもちろんありますが、『ファルスタッフ』は、『オテロ』とともに、音楽的にも緻密に構築されたヴェルディの最高傑作ではないかと思えます。

一方、ワーグナー自身が様々な音楽手法を採用し、また発明してしてきた中で、最終的に到達した境地が、この『パルジファル』という作品だったのではないか、と思えます。
この作品の音楽のことを、僕は、言葉では言いあらわせないのですが……なんと言おうか、すべての要素が集約された構築物に圧倒される感じがいたします。音楽を聴いただけで、聖や俗といったものの価値観、概念がわからなくなるという世界に連れて行ってくれる感じがいたします。

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2016年7月 東京二期会オペラ劇場『フィガロの結婚』より フィガロ役

――今の話を聞いて、両極端ともいえるキャラクターのファルスタッフとアムフォルタスですが、同時に、それぞれがまた極めて人間的なのですね。

黒田: そうですね。本当にそう思います。

――ファンの方には、ぜひ黒田博演じる「人間アムフォルタス」にご期待いただきたいと思います。それでは、宮本亞門さんの演出の魅力についても教えてください。

黒田: ひとつの作品を、実にいろいろな角度から見ていらっしゃるな、といつも思っています。
3次元といえばいいのか、4次元なのか、すごく立体的でダイナミック。音楽とリンクした動きのある舞台が魅力ですが、その音楽も、おそらく亞門さんならではの「聴き方」があるように思います。ここの音楽はふつうならこういうふうに、というものがあったとしても、僕らが感じている感覚とは違う「角度」で使われる感じがしますね。
これまでの稽古でも、亞門さんのアイデアには、本当に腰を抜かすような、驚くことがあるのです。そして、稽古を重ねていくと、そこで本当に胸が締め付けられるくらいの想いにさせられたりするのです。
ワーグナーは、音楽のモチーフがだいたい決まっているように思っているではないですか。亞門さんの場合だと、それがどのようにくるのか、というのは楽しみにしています。

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2021年7月 東京二期会オペラ劇場『ファルスタッフ』より ファルスタッフ役

――最後に、ファンのみなさまにメッセージを。

黒田: 演奏だけで4時間にもなるオペラですが、お客様にとっても、観るのも聴くのも「一日仕事」ですよね。この作品を一日かけてご鑑賞いただいて、家に帰られて、さらにずっと何日もかけて(余韻を)お楽しみいただけるかな、と楽しみにしています。
とにかく、ワーグナーの音楽は「まとも」じゃないですよ!2012年に続いて、今回も読売日本交響楽団さんとワーグナーでご一緒できるというのも楽しみですので、皆様にもご期待いただきたいです。

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▼『パルジファル』公演情報ページはこちら
2022年7月公演 R.ワーグナー『パルジファル』 - 東京二期会オペラ劇場
2022年7月13日(水)17:00*、14日(木)14:00、16日(土)14:00*、17日(日)14:00 東京文化会館 大ホール
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ/演出:宮本亞門/管弦楽:読売日本交響楽団
*…アムフォルタス 黒田 博 出演日

●公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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