ヒロインのフィデーリアの兄フランクを片恋に沈め、主人公エドガールの心を打ち抜いてしまう、美女ティグラーナ。オペラ『エドガール』の台本は、プッチーニの第1作『妖精ヴィッリ』に続いて、フェルディナンド・フォンターナが務めましたが、フォンターナは『盃と唇』というフランスの詩劇を原作にしながら、当世流行のオペラとしてよりドラマティックになるように、ビゼーの『カルメン』も参考にしたということですから、その特徴は、まさにティグラーナというキャラクターに結晶したということでしょう。
マエストロ、アンドレア・バッティストーニの記念すべき日本デビュー・オペラである『ナブッコ』のフェネーナで二期会デビューを飾った中島。『セヴィリャの理髪師』ロジーナを当たり役とし、昨年は東京二期会『ファルスタッフ』にクイックリーで出演。主要なオーケストラとの共演も多い中島にとって、今回のティグラーナは今まで演じてきた役とはまったく違うキャラクターと言います。公演に向けて話を聞きました。
中島郁子
――ティグラーナは、どのような役、人物でしょうか?
中島: 一言で言えば、本能の赴くままに生きる「魔性の女」と言えるでしょうか。
フランクに愛されている事に満足できず、フィデーリアの恋人であるエドガールを誘惑して奪ってしまうところは、まさにカルメンを思わせる女性だと思います。
しかし、彼女の言葉には裏がなく、常に真っ直ぐに自分の想いを語っています。第一幕、ミサで敬虔な祈りを捧げる村人たちの前で、「あなた達にとって、それが祈りであっても、私にとってはカンツォーネだわ! 私は歌いたいの、私は鳥のようにさえずりたいの!」という言葉は、自由奔放な彼女の性格がよく表れているように思います。
2012年2月 東京二期会オペラ劇場『ナブッコ』より フェネーナ役(中央手前)
――そのティグラーナの台詞にも、カルメンに通じるものがありますね。それでは、ティグラーナの見どころ、聴きどころのシーンを教えてください。
中島: ティグラーナは、その性格から、様々な場面で、変化に富んだ表現が要求されていると思います。
例えば、第一幕で、エドガールを誘惑する場面では、プッチーニは「Religioso=宗教的に」と指示して、流麗な旋律で描かれています。その後、祈りを捧げる村人達を邪魔する場面では、「Satanico=悪魔的に」と書かれており、独特のリズム感で激しい感情が表れています。
また、第二幕で、エドガールの気持ちが離れてしまっていると知り、彼への愛を情熱的に歌う二重唱では、「con espress. di volutta'=快楽的な表現で」とあり、この作品の中でも、最も甘美で官能的な旋律で描かれていると思います。
これら全てが魅力的な旋律で描かれていますので、ティグラーナという女性の感情の変化を音楽から感じて頂けると思います。
2017年10月 東京二期会オペラ劇場『蝶々夫人』より スズキ役(左)
――今回の『エドガール』、他のプッチーニ作品と比べて、どのような印象を持たれましたか。
中島: これまで私は、二期会公演のプッチーニ作品では、『蝶々夫人』スズキ役、『修道女アンジェリカ』公爵夫人役、『ジャンニ・スキッキ』ツィータ役に出演させて頂きましたが、それぞれ私は大好きな役ですが、どちらかと言うと、少し落ち着いた雰囲気の役ばかりでした。プッチーニの作品は、残念ながらメゾソプラノの役がとても少ないのですが、この『エドガール』では、珍しくメゾソプラノに妖美な役が与えられています。実は、私は、このような女性を演じるのは初めてですので、新たなレパートリーに挑戦する気持ちで取り組んでいます。
2018年9月 東京二期会オペラ劇場『修道女アンジェリカ』より 公爵夫人役(左)
――新しい中島さんの魅力に出会えそうですね。それでは、公演に向けての意気込みをお願いします。
中島: 『エドガール』は、上演される機会の少ない作品ですが、若きプッチーニの描いた優美な旋律に溢れています。
その作品を、きっとマエストロ・バッティストーニが、更に躍動感みなぎる素晴らしいイタリアオペラへと、導いて下さる事と思います。私も、その舞台に立たせて頂けることをとても嬉しく思っております。是非、会場にお越し頂き、お楽しみ頂ければ幸いです!
――ぜひファンの皆様、ご期待ください!最後に、オーチャードホールにご来場されるお客様に、渋谷の中島さんおすすめのスポットがあれば教えてください。
中島: 私は、なかなか渋谷を訪れる機会がないのですが、美術館が好きなので、オーチャードホールのあるBunkamuraのザ・ミュージアムには、興味のある展示を見つけると訪れます。何年も前になりますが、ダ・ヴィンチやルーベンスの名画に感銘を受けたことを覚えています。是非、皆様も、オーチャードホールでの音楽会と合わせて、美術館もお楽しみ頂ければと思います。
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▼『エドガール』公演情報ページはこちら
・2022年4月公演 G.プッチーニ『エドガール』<セミ・ステージ形式上演> - 東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
2022年4月23日(土)17:00*、24日(日)14:00 Bunkamuraオーチャードホール
指揮:アンドレア・バッティストーニ/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
*…ティグラーナ 中島郁子 出演日
●公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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