バリトンの役に似つかわしい貫禄と朗らかな人柄からか、仲間から「ビッグ」の愛称で親しまれています。二期会オペラ研修所は最優秀で修了(川崎靜子賞受賞)。『ダナエの愛』で二期会オペラ・デビュー後も自分の歌に磨きをかけるため、ドイツ・ハンブルクに留学。帰国後もさらに活躍を続け、昨年は『魔笛』『こうもり』に出演しました。
今年は、『エドガール』フランクに続いて、7月『パルジファル』聖杯の騎士、9月『蝶々夫人』ヤマドリと、なんと3公演連続での出演が決まっています!まずは2022年の初登板に向けて話を聞きました。
杉浦隆大
――フランクとはどのような人物でしょうか?
杉浦: 町の人々に悪女とまで呼ばれるティグラーナのことを愛し、彼女のために決闘するも恋は実らず、軍人となって彼女への想いを断ち切った男(もしかしたらまだ断ち切れていないかもしれませんが…)、それがフランクです。
――ティグラーナとは、小さいときから一緒に暮らしていたんですよね。
杉浦: フランクにはフィデーリアという妹がいますが、ティグラーナは、生まれながらに捨てられてしまったところをフランクの父グアルティエーロに拾われ、フランクやフィデーリアとともに育てられました。フランクの家族は基本的に信心深い人々ですが、ティグラーナは成長するにつれ不道徳な道に走り、今では町の人々に悪女と蔑まされ煙たがられるような娘に育ってしまいました。フランクは彼女が不道徳な道に走っていることを許せませんが、一方で彼女のことを愛しています。彼女には一向に相手にされていませんが。
町の人々に追い立てられたティグラーナはエドガールとともに町を去ろうとしますが、フランクは彼女をエドガールに奪われたくなく、決闘をします。結局彼らには逃げられ、フランクは裏切られた想いからか、彼らの去り際、ティグラーナに呪いの言葉をかけます。それほどまでに彼女のことを愛していたといえるでしょう。
2021年9月 東京二期会オペラ劇場『魔笛』より 僧侶I役(パミーナの後ろに立つ金色衣裳の人物)
――愛したいがゆえにその悪が許せない、愛の言葉が届かないがゆえに呪いの言葉をかける、というのは…
杉浦: ティグラーナがいない日々を送る中で、フランクは軍に入隊し、隊長となります。きっと彼女のことを忘れるため必死にがんばって、気づいたら隊長にまで昇りつめていたという感じでしょう。
第2幕で偶然エドガールとティグラーナに再会するフランクですが、エドガールの入隊願いを快く受けるほどフランクは彼と意気投合し、逆にティグラーナには見向きもせず、むしろ軽蔑します。第3幕ではティグラーナの本心を知りたがり、エドガールとともにその本心を探ろうとします。その方法はまるで詐欺をはたらいて罠にはめるかのようなやり口で、いくらティグラーナへの想いを断ち切ったからとは言え、少々彼女への軽蔑が過ぎるように思います。愛すること、失恋して想いを断ち切ること、フランクには何事にも猪突猛進な面があるかもしれません。
――温和な杉浦さんからはなかなか想像できない役ですが、フランクのやりがいはどのあたりに?
杉浦: フランクの聴きどころは、第1幕で歌われるアリア「Questo amor, vergogna mia」が1番だと思います。またアリアに向かうまでの、ティグラーナとのやり取りも、彼の心情がよく表れている箇所だと思います。旋律が美しいこのアリアですが、このオペラの音楽は随所にスケールの大きな音楽が見られ、それにかき消されないよう、印象に残るように歌いたいと思います。
2021年11月 東京二期会オペラ劇場『こうもり』より フランク役(写真中央:こちらのフランクは刑務所長)
――プッチーニには珍しいバリトンのアリアですね。
杉浦: プッチーニのオペラ2作目ですが、音楽にはすでに他の作品に見られるような旋律の美しさが際立っているように思えます。プッチーニの他のオペラと違う点では、私がバリトンだからだと思いますが、本当に数少ないバリトンのアリアがあることです。先の「Questo amor, vergogna mia」は比較的短いですが、しっかりとアリアと呼べるものがバリトンの役に割り振られているのです。いつもプッチーニの美しい旋律をアリアとして歌われているソプラノやテノールをうらやましく思っていますが、このアリアだけはバリトンのものであり、ちょっと短いですが、存分に堪能することができます。
――杉浦さんの歌うアリア楽しみにしていただきましょう。最後に、ファンの皆様に向けてメッセージをお願いいたします。
杉浦: プッチーニの初期作品『エドガール』、上演されることは本当に少なく、貴重な機会に出演することができて本当にうれしく思っております。皆さまにお楽しみいただけますよう、しっかりと歌わせていただきます。どうぞ足をお運びいただけたらと思います。
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▼『エドガール』公演情報ページはこちら
・2022年4月公演 G.プッチーニ『エドガール』<セミ・ステージ形式上演> - 東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ
2022年4月23日(土)17:00、24日(日)14:00* Bunkamuraオーチャードホール
指揮:アンドレア・バッティストーニ/管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
*…フランク 杉浦隆大 出演日
●公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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