各公演ご案内第2回は、1日目を飾るブラームス・ワルツ集「2つの愛の歌」から。
出演のメゾソプラノ加納悦子がブラームス歌曲の聴きどころと、その魅力をお届けします。
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ブラームスの歌曲を歌うとき、いつもシャープ・フラットといった臨時記号に気を付けています。これらがミソなのです。ブラームスの歌は一見どっしり構えて安定していますが、よく観察すると、多くの色があるので、これが臨時記号になって書かれていると私は思っています。
例えば《愛の歌・ワルツ集》と同じ詩人、ゲオルグ・フリードリヒ・ダウマーの詩による《Wie bist du, meine Königin なんと君は、私の女王様》というブラームスの曲があります。各節の終わりに “wonnevoll, wonnevoll!=「喜びいっぱい、喜びいっぱいに」”が繰り返される、たおやかな愛の歌で、演奏していても聴いていても穏やかな心地よさに包まれます。
歌い始めから全然臨時記号がありません(譜読みが簡単!)。第2節目の終わりに現れる1回だけの臨時記号【♭】がついた言葉を見ると、“Ach=「あぁ」”という溜息。そこで「ヨハネス・ブラームスはこのように、ふと少し低く溜息を漏らしたのだなぁ」と読み取る訳です。そのあとの第3節では思いが千々に乱れ♯と♭のオンパレードになり、ブラームスのパッションの開花となるのです(素敵!)。
音符と言葉の世界で想像、ときに妄想の翼を広げながら、特にブラームスでは、全体を簡単に俯瞰しただけでは分からないが、分け入って詳しく味わってみると、彼の魅力、言い換えればエロスが垣間見られるというのが、ブラームス歌曲の楽しみの一つだと私は思っています。
バリトン 小森輝彦 | ソプラノ 佐々木典子 | メゾソプラノ 加納悦子 |
テノール 松原 友 | ピアノ 小林道夫 | ピアノ 井出德彦 |
さて、家庭音楽という分野(?)があって、まさしく家族や仲間が睦まじく合唱・合奏するためにある音楽ですが、まずは楽しめるように、それほど難しくない曲で、でも十分芸術的な雰囲気が溢れている、といったらブラームスの《愛の歌・ワルツ集》は代表的な作品です。“ブンチャッチャー・ブンチャッチャー”のリズムの「レントラー」という南ドイツ圏特有の素朴なワルツに乗せて、男女の恋愛についての〈あれやこれや〉が歌われていきます。
ただし「それほど難しくない」と言いましたが、ここにもヨハネス・ブラームスのエロスは漂っていて、めまぐるしい転調があり(つまり予期せぬシャープやフラットです。)、特に!!その転調を四人の歌手の内側!にいる人(アルト!)が一生懸命お仕事をして成し遂げていると自負しています。《愛の歌》の数々に出現する情緒の揺らぎやパッションの表現を、声楽アンサンブルの内側の声の人が担っている、とでも言いましょうか。見え隠れしながら奮闘する、真の愛の奉仕です。
また、この曲集はピアノが連弾なので、家族や仲間との演奏ももちろん楽しいのですが、時には思いを寄せている二人が連弾するのも、時々指が触れたりしてスリリングですね。
私にとってはドイツ・ケルン音大留学中に、学内のリート・クラスの演奏会で歌って以来の《愛の歌》です。恋愛の〈あれやこれや〉には多分もうドギマギしません。しかしこのブラームスの〈あれやこれや〉にはうろたえてしまう。今年の二期会Daysの《愛の歌》のメンバーは各々が恋のい・ろ・はを熟知しつつも、ブラームスの音楽に翻弄されて、皆でドギマギするのでしょうか。
1874年に公表された《愛の歌》作品52と、好評を博して翌年公表された《新・愛の歌》作品65の計33曲。全て三拍子、ワルツです。ドイツ・リートを愛してやまない四人の歌手と二人のピアニストの手に汗握る丁々発止が生まれますように。
――加納悦子
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ちらし(PDFファイル) |
■■■ 公演情報 ■■■ NIKIKAI Days@Blue Rose 2021 ■会場:サントリーホール ブルーローズ ■料金(全席指定・税込): プレミアム席6,000円(オリジナルクリアファイル付)、普通席4,500円 |
<第1日 ブラームス・ワルツ集「2つの愛の歌」> ■日時:2021年5月16日(日) 14:00開演 ■出演: 佐々木典子(ソプラノ)、加納悦子(メゾソプラノ)、松原 友(テノール)、 小森輝彦(バリトン)、小林道夫(ピアノ)、井出德彦(ピアノ) |
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