去る1月21日(土)、2月公演『トスカ』のプレイベントとして、イタリア文化会館アニェッリホールにて開催した二期会プレ・ソワレ。多くの方のご来場ありがとうございました。
イタリア文化会館文化担当官ステインマイヤーさんのご挨拶の後、アレッサンドロ・タレヴィが登壇。50分ほどにわたり、今回の『トスカ』のコンセプトについて、またそれにまつわるローマ歌劇場ならではのエピソードを語りました。
休憩を挟んだ後半には、ソプラノ髙橋絵理、テノール前川健生、ピアノ大藤玲子による生演奏。〈妙なる調和〉、〈歌に生き、恋に生き〉、〈星は光りぬ〉、そして第1幕のトスカとカヴァラドッシの二重唱をお聴きいただきました。
ステインマイヤー氏
今回、演出家のコンセプトを直接伝える唯一の機会でしたので、あらためて、ここに当日のトークの様子をお伝えします!
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アレッサンドロ・タレヴィ:
みなさま、こんばんは。
このローマ歌劇場のプロダクションで日本に来られたことに本当にうれしく思います。私にとって初めての『トスカ』の仕事でした。そして、このプロダクションにとって初の国外での公演が、今回の日本公演となります。
今、(東京二期会の)稽古はとてもうまく進んでおります。日本の歌手のみなさんはほんとうに機敏に何でもできて、すばらしいカンパニーだと思っています。
(今回の舞台は、1900年の『トスカ』世界初演時の舞台美術を出来る限り忠実に蘇らせたもの)まずは、私たちが、なぜこの作品の世界初演に立ち戻らなくてはならなくなったのかについて、お話ししたいとおもいます。1900年の初演から、120年近く経とうとしています。その間、多くの発展があったにもかかわらず、初演に戻らなくてはならなかったのか。これは、当時受け入れられた美的なものが、現代でも通用するのかという意味で、実験的なものでもありました。
実は、私自身は、通常、新しいものを作ることのほうが好きなので、こうした伝統的なものを作るというのはとても珍しいことでした。
プッチーニは、ローマを舞台にした、ローマの薫りのする舞台を作りたかったのでした。『トスカ』の物語は、ローマに実在する建物の上で展開します。
なので、今回は、オリジナルに忠実にすることに意義があると思いました。ローマの薫りのするような舞台。宗教的にもバチカンに近いことですとか、ローマの街並みですとか、そういったものが分かるような舞台にすることにしました。
もちろん『トスカ』を現代的な舞台にすることも可能です。でも、そうするとローマの雰囲気が崩れてしまいますし、ローマであることの力が失われてしまうと思います。プッチーニ自身はそこを細かく描いていると思います。
『トスカ』世界初演のときに美術を担当したホーエンシュタイン氏によるスケッチが今も事細かに残っているのです。なので、今回それらを再現することが可能になりました。
ほんとうにすべてのスケッチが残っています。第1幕は、聖アンドレア・デラ・ヴァッレ教会で、第2幕はファルネーゼ宮殿。ただ、宮殿自体は実在していますが、その室内は想像上のものです。また3幕のサンタンジェロ城の屋上は、実物と同じ寸法で測られています。
衣裳も、トスカ、カヴァラドッシ、スカルピアの三役だけでなく、ブルジョワ市民、農民、宗教行列、そのなかの大司教の衣裳まで、すべてのスケッチが残っています。衣裳スケッチには、生地の種類や色はもちろんボタンに至るまでものすごく細かい指示が書かれていました。したがって、今回の『トスカ』はものすごく色彩豊かになりました。ローマでの最初の舞台稽古で、衣裳をつけた合唱団が入ってきたときには、すばらしい色彩の美しさにみんな感嘆しました。それはまるで、200年から300年眠っていたシスティーナ礼拝堂が復興したかのような感動でした。
『トスカ』の慣習的な舞台では、教会は重厚壮大に描かれ、色彩もグレーで重苦しく描かれてきたことのほうが多いのですが、今回のプロダクションでは、軽やかでとても明るいものです。それは、たとえば、第1幕のトスカとカヴァラドッシの愛のデュエットなどにもとても似つかわしいものになっていると思います。
実際に本物の教会に入ると、確かに、とても光に溢れている所だということが分かりました。私たちは伝統に立ち返るということをやってきたわけですが、伝統を超えたものができたと考えています。このオペラが生まれて100年の間に、ある意味、「伝統」というものが作られてきてしまったわけですが、それらを今回は取りはらうことにしました。
舞台装置や衣裳もすばらしいものですが、ドラマトゥルギーとしてもすばらしいものができたと思っています。プッチーニは、登場人物の動きをまず考え、音楽を書いていきました。それはまるで映画の作曲家のような手法です。なので、プッチーニの楽譜には、ものすごく細かいト書きが書かれているのです。
舞台の人の動きも、いかにもオペラというようになりすぎていて、それはあまりよろしくないと思いました。ですが、プッチーニのト書きを忠実に再現しようとすると、面白いことにその動きはとてもナチュラルなものであるということが分かってきました。いつの間にか、歌手の人たちがそのト書きを無視するようになってきていたのですね。たとえば「マリア・カラスはこうやっていた」とかが、ソプラノの人の頭の中には根付いていたのです。今回、私はそうしたもの取り去ろうとしました。そうすることによって、プッチーニが本当にやりたかったことが描けたと思います。
第3幕のトスカとカヴァラドッシのデュエットで、そこに銃殺隊が入ってくるというシーンがあるのですが、音楽スタッフからは「なぜこんなところで銃殺隊が入ってくるんだ?」と言われました。私は「プッチーニのト書きにそう書いてある」と答えました。
おそらくプッチーニは二人の愛の喜びの背後に銃殺隊を登場させ、数分後にカヴァラドッシが処刑されるという、いわば意味の相反するシーンを同時に表現したかったのだと思われます。私はオリジナルの意味を取り戻したかったのです。
ローマ歌劇場で宗教行列のシーンを行うということは、とてもデリケートなことです。実は、合唱団の中に、バチカンで役人をされている方がいらっしゃいました。おそらくは半日劇場で仕事をし、半日バチカンの仕事をされているのだと思います。
最初、そうした方がいらしたことを私は知りませんでした。第1幕に「テ・デウム」という宗教的なシーンがあって、私はみなさんに一生懸命説明しているのですが、誰も私を見てくれず、ある男のほうをずっと見ている。「なんでだろう?」と思ってみると、彼は、このようにして、うつむいて首を振っている。要は、全員が彼のことを知っていて、彼が何を言うのか様子を見ていたのです。
ローマでの仕事で私にとって戦いであったのは、そうした方の前で、私がやるべきことは、本物のミサをすることではなく、舞台の上で音楽にも制約されている中で、芝居として成立させなければならない、ということでした。
後にその方のことを知ってから、私はよく話をしました。
大司教様が登場する場面でみなさんに「跪いてください」と説明をしたら、「ローマ人はそのようなことはしない、してはいけないんだ」といわれた。でも、楽譜にはそう書いてある。どうすればよいか、彼に相談をしました。そうしたら、「それならば、『御聖体』があれば、皆跪くことができる」と教えてくれました。そうして御聖体を容れる器を探し舞台にあげることで、そのシーンを作りあげることができました。
ローマでは稽古の後にも楽しみがありました。仕事の後に街を散策すると、歌劇場から歩いてすぐのところに、第1幕の聖アンドレア・デラ・ヴァッレ教会があり、そこから歩いて3分くらいのところには、第2幕のファルネーゼ宮殿があります。もう少し歩くと、第3幕サンタンジェロ城に着きます。そうして『トスカ』の舞台を実際に歩いてみることができました。
『トスカ』は1800年に起きた史実にも基づいています。そうした背景も、プッチーニが描きたかったことでした。そして、世界初演された1900年代というのは、アールヌーボーや自由主義が流行した時代で、プッチーニやホーエンシュタインもその影響を受けています。そして、現代には、すぐれた歌手のみなさんがいて、このオペラに現代の動きを加えています。今回は、物語の背景となる1800年とプッチーニの『トスカ』が生まれた1900年、そして現代という、3つ世紀に跨った公演になると思います。
ありがとうございました。
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後半のコンサートで第1幕の二重唱を演じる髙橋絵理と前川健生
チラシ(PDF) |
■■■ 公演情報 ■■■ 東京二期会オペラ劇場 《ローマ歌劇場との提携公演》 G.プッチーニ『トスカ』 オペラ全3幕・日本語字幕付き原語(イタリア語)上演 日時:2017年2月 (残席状況は1/25・18時現在) 15日(水) 18:30開演 … S・A・B席 あり/C席 残少/D・E席 完売 16日(木) 14:00開演 … S・A・B席 あり/C席 残少/D・E席 完売 18日(土) 14:00開演 … S・A・B・C席 残少/D・E席 完売 19日(日) 14:00開演 … S・B席 あり/A・C席 残少/D・E席 完売 (各日とも開場は開演の60分前) <★15日の公演ではプレミエ・キャンペーンを開催いたします> 会場:東京文化会館 大ホール 料金:S席15,000円~C席8,000円、学生席2,000円 指揮:ダニエーレ・ルスティオーニ 演出:アレッサンドロ・タレヴィ 管弦楽:東京都交響楽団 |
▼公演情報ページはこちら
・2017年2月公演 G.プッチーニ『トスカ』 - 東京二期会オペラ劇場
▼チケットのお求め、お問合せは
・二期会チケットセンター TEL03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日・祝 休)
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