昨年11月のアン・デア・ウィーン劇場においてダミアーノ・ミキエレットの新演出で大きな話題となり全6公演が完売したモーツァルト『イドメネオ』。東京での二期会公演は9月12日から開幕しますが、これが先がけとなるように、名門歌劇場で続々と『イドメネオ』ニュープロダクションが予定されています。
2014年10月はウィーン国立歌劇場、11月はロイヤル・オペラ・ハウス、15年1月に入るとフランス国立リヨン歌劇場にリール・オペラ座……もはや海外では『イドメネオ』は、『フィガロの結婚』や『魔笛』と並ぶモーツァルト・オペラの人気作品です。
これほどまでに現代のオペラ・ファンを魅了する『イドメネオ』。
久しぶりの東京でのプロダクションで、二期会としても実は初めて取り上げる作品です。
その魅力について、音楽評論家の堀内修先生にお話をうかがいました。
ぜひ映像でご覧ください!
◆抜粋◆
『イドメネオ』は一言でいうと、「傑作」です。
このオペラが「バロック・オペラの傑作」あるいは「バロック芸術の最高峰」と言っても過言ではありません。このオペラを観れば、バロック芸術とはどのようなものか、わかると言えます。このオペラが200年間のオペラを象徴していると言えるのです。
初演当時25歳であったモーツァルトにとって、『イドメネオ』は自分が世に出るための作品と考えていました。したがって作曲するにしても、力の入れ方が他の作品とまったく違いました。
バロック芸術では、「愛と秩序の調和」がつねに目指されるものです。ロマン派の時代は違います。例えば『椿姫』のヴィオレッタがすばらしいのは、秩序を捨てて愛に生きたからであり、その一方でジェルモンの世界は抵抗されるものです。
ですので『イドメネオ』はロマン派の時代からこれまで、なかば忘れられた存在でありました。しかし、少なくとも1970年代からは脚光を浴び始め、2006年のモーツァルト生誕250周年のときには、『フィガロの結婚』や『ドン・ジョヴァンニ』と並ぶ、あるいはそれ以上の作品として評されるようになったのです。ですから日本でこれほど上演されないというのは不思議なくらいです。
なぜ今『イドメネオ』が見直され、欧米ではポピュラーなものになりつつあるのか、その理由のひとつは、慣習にとらわれず積極的に現代を反映しようとする演奏と演出です。
バロックでめざされた「愛と秩序の調和」は、今や「平和を求めるオペラ」になります。ロマン派時代には切り離された「秩序」や「調和」といったものが、案外大切なのではないか、と見直されています。それが今、新しい演出によって、現代に甦ってくるのです。
『イドメネオ』はトロイア戦争の後日談です。ある意味では、これは戦争をめぐる物語。ですから、これはとても現代的なオペラなのです。
今回の二期会の公演は、こうした最先端のモーツァルトに触れるいいチャンスなのではないでしょうか。
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東京での4回の公演をお見逃しなく!
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・2014年9月公演 W.A.モーツァルト『イドメネオ』 - 東京二期会オペラ劇場