「国際共同制作(3)」    オペラの制作現場からーその22

 国際共同制作はいいことばかりかというと、必ずしもそうとは言えないことも分かってきました。先方は新演出の初日を出したシーズンには少なくとも5、6回の再演を行うのですが、装置・衣裳を日本と共用しますので、船便で運び通関を通す期間を考えると、同一シーズンに両国で公演することは困難さが伴います。
 また舞台装置の工業規格が異なるので、公演回数の多い欧州の劇場内工房で製作するのが最も問題が少ないのです。 しかし、そうすると常に欧州側が初演をして、オフシーズンに日本に輸送して次のシーズンに日本公演という順番になります。向こうで出来上がったものを借りて来たと誤解を受けないためには、計画段階から準備に至るまでの双方の会議内容など議事録をとっておくとか、先方のプレミエのプログラムに「東京二期会との共同制作」と記載して貰う必要もあります。
 ハノーファー州立歌劇場との共同制作『さまよえるオランダ人』では、ベルリン在住の日本人演出家(渡辺和子氏)を起用し、日本でプレミエを出すことにしたり、二期会の出演者が先方の公演に出演したり、新たな試みも行いました。日本公演のために来日した先方の歌劇場総裁から「合唱のドイツ語がはっきり聞き取れるのには驚いた」などと高い評価を受けたことも記憶に残る思い出です。(下の写真は稽古場に組まれた舞台と演出家渡辺和子氏、下段に渡辺氏筆によるゼンタ、オランダ人の衣裳イメージ)
 %E3%82%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80%E4%BA%BA%E8%88%9E%E5%8F%B0%E5%B0%8F.jpg
%EF%BD%BE%EF%BE%9E%EF%BE%9D%EF%BE%80%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8.JPG %EF%BD%B5%EF%BE%97%EF%BE%9D%EF%BE%80%EF%BE%9E%E4%BA%BA%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8.JPG
 ただ、制作が実際に行われる年と、日本公演のシーズンが異なってしまうために起きる問題があります。日本公演の前年度に先方側の公演が行われるとき、まだ日本での文化庁助成認可が下りているわけではなく、リスクを全部我々が負った形で分担金を払い込む必要があります。その工面が大変なのです。それを無事クリアできたとして、実際の予算が認可されたときの為替レベルに差ができると、当然差損が発生するリスクが発生します。100%実現するか分からない状態では為替リスクのヘッジも難しく、不安の塊となっていきます。
 
 先に出ていったお金を支払えるだけの助成が出るかどうかは、上演シーズンの認可事項で決まります。年度のまたがるプロジェクトを認可する仕組みがないために起こる問題なのですが、十分な資金を持たない我々のような芸術団体にとって厳しい現実でした。このところしばらく中断しているのは、資金事情という背に腹替えられない問題があることも事実です。しかし、パートナーによっては、単独では制作できなかったものが実現するというプラス面に着目し、二期会側のリスクを配慮して、分担金の大部分を日本での公演年度に払い込むことを了承するケースも出てきました。これは確かな前進で、再び新たな共同制作を実現することも視野に入ってきました。
 今では、ドイツだけではなく欧州の他の国からも、複数の劇場から共同制作のオファーがあります。リスクを慎重に計りながら、再開できるよう検討を続けているところです。(常務理事 中山欽吾)

Page Top