ルクレツィア・ボルジアのあらすじ
『ルクレツィア・ボルジア』
プロローグと2幕のオペラ
台本:フェリーチェ・ロマーニ
作曲:ガエターノ・ドニゼッティ
登場人物:
ドン・アルフォンソ、フェッラーラ大公(バス)
ルクレツィア・ボルジア、フェッラーラ大公妃(ソプラノ)
ジェンナーロ(テノール)
マッフィオ・オルシーニ(アルト)
イェッポ・リヴォレット(テノール)
ドン・アポスト・ガゼッラ(バス)
アスカニオ・ペトルッチ(バス)
オロフェーモ・ヴィテロッツォ(テノール)
グベッタ(バス)
ルスティゲッロ(テノール)
アストルフォ(バス)
プロローグ

ヴェネツィア、ダグマーニ邸のテラス、夜会

ヴェネツィア共和国の備兵として雇われている若い騎士たちの陽気な一団が、ヴェネツィアでの最後の夜を祝っている。その中にはマッフィオ・オルシーニとその友人ジェンナーロもいる。明日には全員がフェッラーラ大公のアルフォンソ・デステとその大公妃ルクレツィア・ボルジアのもとへ赴かなければならない。その名に一同驚く。彼女の犯した殺人はあまりに残虐で、嫌悪感をもよおさずにはいられなかったからだ。オルシーニはリミニの戦いの間に聞いた不思議な声について語る(アリア「リミニの戦いで」)。その声は、彼とジェンナーロがボルジアの手にかかって死ぬと予言したのだ。 ジェンナーロはその話をよそに離れたところで眠ってしまう。 全員が退場。 そこへ一艘のゴンドラが着き、仮面をつけた貴婦人が下りてくる。それはルクレツィア・ボルジアで、愛する庶出の息子ジェンナーロに会うため、身分を隠してヴェネツィアにやってきたのだ。彼は自分の出生について知らされていない。ルクレツィアは眠っている息子を見つめる(ロマンス「なんと美しい」)が、夫と夫の右腕ルスティゲッロに見られているとは気づいていない。彼らはこの若者を大公妃の愛人と思っている。彼女の腹心、陰湿なグベッタの警告にもかかわらず、ルクレツィアは仮面をとって息子の手にキスをする。目覚めた彼はミステリアスな美しい貴婦人を口説こうとする(二重唱「どなたが口付けを」)。そして孤児という自分の身の上を語り、まだ見ぬ母への愛情を語る。ルクレツィアは若者をなぐさめるが、再び登場したジェンナーロの友人たちに邪魔される。大公妃は仮面をつけるが、時は遅く、必死で逃げよう とする。オルシーニはこの女が悪女ルクレツィア・ボルジアだと気づき、恐れおののくジェンナーロの前で、全員が彼女の正体を暴き、侮辱する。

第一幕

フェッラーラの広場

公爵アルフォンソは妃の愛人がジェンナーロと思い、復讐を決意しルスティゲッロにジェンナーロを殺すよう命じる(アリア「行け、我が復讐の思いよ」)。
もの思いにふけったジェンナーロが登場。陽気な一団にネグローニ公女のパーティに行こうと誘われるが断る。そして公爵邸の階段を上り、ボルジア家の紋章の頭文字を剣で切りとって、ボルジアの名をオルジア (淫蕩な宴の意) にしてしまう。一人残ったジェンナーロは公爵の私兵に逮捕される。

公爵の宮殿の一室

ルクレツィアが登場し、家紋が侮辱されたことに対して復讐を願う。公爵は全面的に賛成し、ジェンナーロに申し開きをさせるが、 彼は自分の罪をおおらかに告白する。母と名乗れず絶望したルクレツィアはジェンナーロを弁護するが、聞き入れられず、二人だけで話をしようと夫に申し出る(二重唱「二人だけになったぞ」)。 しかし媚びても、祈っても、脅かしても(二重唱「ああ、それならば自分の身を心配しなさい」)、ジェンナーロを殺そうという公爵の意思を撤回させることはできない。公爵は、彼女に愛人が毒で死ぬか、剣で死ぬかを選ぶように命じる。冷酷なためらいの後、ルクレツィアは毒を選ぶ。 ルスティゲッロと公爵の私兵たちが再びジェンナーロを連れてくる。 公爵は彼を許すふりをして、ルクレツィア自身が差し出す杯から酒を飲むよう勧める。全てが終わると、公爵はお付きの者たちを連れて立ち去る。 母子二人だけになるやいなや、ルクレツィアはワインに毒が入っていたことを告げ、解毒剤の入った小瓶を渡して彼を逃がす。

第二幕

ジェンナーロの家の小さな中庭

公爵の私兵を連れたルスティゲッロがジェンナーロを殺そうと彼の家をうかがっているが、人が来た物音でとりあえず危険は回避される。やってきたのはマッフィオ・オルシーニ。ジェンナーロはオルシーニに昨夜の様子を物語り(二重唱「俺は命を脅かされた」)フェッラーラを去ろうとする。しかし、オルシーニはジェンナーロをネグローニ公女のパーティへの誘いに来たのだった。二人は友情を確認し、共に立ち去る。私兵たちはその後を追おうとするがルスティゲッロはそれを止める。若者は彼らが用意した更にひどい罠に落ちたのだ。

明るく照らされたネグロー二邸の広間─陽気な宴会のために飾りつけられている

宴もたけなわ、若い騎士たちは既に酔っ払い、大勢の貴婦人たちやスペインの傭兵として入りこんだ陰険なグベッタとともにテーブルについている。彼は貴婦人たちを遠ざけるため、オルシーニを挑発する。喧嘩になるがすぐに仲裁され、決闘にはならない。客たちは入り口に剣を置いてきているので、武器を持っていないのだ。黒服の酌係が一本の瓶を持って回る。グラスの中身を自分の後ろに空けたグベッタを除き全員が飲む。グベッタはオルシーニの歌(オルシーニのバラード)を歌うよう求める。歌の途中で挽歌のコーラスと葬式の鐘が遠くに聞こえる。最初は貴婦人たちのいたずらと思われたが、明かりが消えはじめると、全員が入り口に向かう。しかしかんぬきがかかっている。突然ルクレツィア・ボルジアが現れる。この宴会はヴェネツィアで彼女を侮辱した者たち全員毒殺するため、彼女自身が計画したものであった。しかし参加者のなかにジェンナーロを見つけると彼女は警備兵に命じて他の者たちを去らせる。
ジェンナーロと二人だけになると、なんとかして解毒剤を飲むよう必死で納得する。ジェンナーロは頑として拒絶し、友人たちと共に死ぬと言う。 しかしその前に彼ら仇を討とうと、テーブルから小刀を取ってルクレツィアを襲う。この時になって、彼女はジェンナーロの身元を明かし(アリア「聞いて、ああ」)、彼がボルジア家の一員であり、今まさに母親を殺そうとしているのだと告げる。若者は驚くが、すでに瀕死の状態にあり、椅子の上に倒れこみ、ルクレツィアの腕の中で意気を引き取る。そこに公爵が宮廷の人々を従えてやってくる。ルクレツィアは最後に告白(カヴァレッタ「この若者は私の息子でした」)して倒れる。