びわ湖ホール、神奈川県民ホールと当財団との共催オペラ『トゥーランドット』がいよいよ来春に迫り、この10月28日と29日、それぞれの開催地で記者発表が行われました。
今年2月および3月に公演が行われた、三者による共同制作第1回目の『ばらの騎士』は、演出家ホモキ氏の見事なドラマ作りが、音楽監督の沼尻氏による大阪センチュリー響(びわ湖)と神奈川フィル(同県民ホール)の名演と相まって、観客に深い感動を与えました。
そして来年度の『トゥーランドット』は、文化庁による芸術創造活動重点支援事業(舞台芸術共同制作公演)に指定され、日本オペラ連盟も参加した一歩踏み込んだ取り組みとなります。
さて、神奈川県民ホール側の発表会は銀座並木通りの三笠会館、びわ湖ホール側は大津の同ホール講義室において、出席を頂いた関係各記者に説明が行われました。出席者は本プロジェクトの指揮者を務めるびわ湖ホールの沼尻芸術監督、同ホールの井上館長、一柳神奈川県民ホール芸術総監督、演出の粟国淳氏、共催の日本オペラ連盟から草壁常務理事、そして二期会側からは栗林理事長が海外出張中のため小職がその役を務めさせていただきました。
出演者では、東京でカラフ役の福井敬、トゥーランドット姫役の横山惠子、びわ湖ではトゥーランドット姫役の並河寿美が出席して華を添えました。
本公演の指揮をとる沼尻氏は、「びわ湖ホールにおける公演は、これまで20世紀のドイツ系オペラの傑作を中心に上演してきたが、今回はイタリア系の20世紀オペラを取り上げることになった。このオペラは『サロメ』より今に近い時代に作曲されていて、ステージとピットが一体となってドラマが進行する面白さがあります。」と述べる一方、演出家の粟国氏によれば、『プッチーニがこのオペラを作った1926年には、フリッツ・ラング監督が『メトロポリス』という映画を作っているなど、時代にエンターテインメントとしての新しいテンポ感が出てきたことを作曲家自身も意識していたと思われ、オペラ作りも今までとは違うという思いがあったのではないか。だから、リューの死以後の作曲ができなかったのは、作曲家の死までの時間を考えると今までとは違う凄いグランドオペラを考えて筆が止まったのではないかとの解釈もあり得る。」と述べ、作品への期待はいやが上にも高まってきていることを強調しました。(財団常務理事 中山欽吾)
タグアーカイブ: 神奈川県民ホール
「オペラ劇場仕様の話し(1)」 オペラの制作現場からーその12
ここ十数年の間に続々と建設された本格的なオペラ劇場仕様のホールは、特に多面舞台であること(舞台の上手、下手、奥に舞台と同じサイズのスペースが設けられているのが4面舞台)と、ホール自体の残響時間がオペラ上演に最適な設計となっていることが挙げられます。日本の多面舞台ホールは世界でも最先端の設備を持っているとさえ言われています。
誤解をしていただきたくないのは、多目的に使われる各地のホールにも、設計段階から様々な工夫がなされ、素晴らしいオペラ上演空間のところが沢山あることです。会場の仕様を理由にオペラをやらないことはまずあり得ませんし、実際私たちの団体も永年全国各地の「本格的なオペラ劇場仕様ではない」会場で公演をしてきましたし、今後も変わることはありません。
では、多面舞台と音響の意味するところは何なのでしょうか。今回と次回の2度に分けてお話しすることにしましょう。まずは多面舞台のホールからですが、平面図を見ると客席部よりむしろ舞台の方が大きく感じるほどの床面積を持っていて、各幕の舞台装置を右や左や奥から次々に出して来るには至極便利です。しかし、本来の意味合いは連日公演を続けるオペラ劇場にとっての作業の利便性です、つまり公演が行われていない時間帯には次の演目の稽古をやるための舞台装置が組み立てられ、終わり次第その夜の公演のために別の装置を仕込むといった。ですから幕毎に舞台装置を入れ替えるオペラでも、段取り次第で多面舞台を持たないホールで十分に上演が可能だというわけです。
ちなみに、ヨーロッパの有名歌劇場でも完全な4面舞台がない例があります。年間に300回の公演を行っている二つの歌劇場のうち、ウィーン国立歌劇場では下手側の奥行きが舞台の半分くらいしかなく、バイエルン州立歌劇場では片側の袖は通路だけ、平面図を見ると田の字です。
日本が世界に誇るホールをできるだけ多く活用するためには、単独では予算の制約がある複数のホールや制作団体が協力して、制作自体に多額に費用がかかるオペラを1回でも多く公演することも大切です。その意味でこの2月と3月、びわ湖ホールと神奈川県民ホールの共同制作になるオペラ『ばらの騎士』の成功は、二期会が制作団体として協力(共催)させていただいたことも含めて、今後に大きな示唆を与える画期的なプロジェクトだったと思います。(常務理事 中山欽吾)
「演目を決める」 オペラの制作現場からーその8
オペラ団体が演目を決めるのは、その団体の性格や方向性を示す上で重要なステップです。例えば〈イタリアオペラの藤原歌劇団〉に対して〈ドイツオペラの二期会〉というのが二期会に貼られてきたレッテルですね。
今年に入って、『ワルキューレ』に続いて、6月の『ナクソス島のアリアドネ』、自主公演ではありませんが、びわ湖ホール・神奈川県民ホールとの共催公演『ばらの騎士』まで含めるとドイツオペラが3本続くので、「やっぱり!」といわれそうです。そこで実際はどうかと調べてみました。
まず藤原歌劇団ですが、藤原義江引退後の1964年以降2005年までのデータをみると、イタリア約78%、フランス約11%、その他11%(内モーツアルト6%)と、文字通り〈イタリアオペラの藤原〉です。創立以来のデータもほぼ同様です。
一方、二期会はどうかというと、モーツァルトを含むドイツオペラが40%(純ドイツ20%+モーツァルト20%)、次いでイタリアオペラが27%、あとはジャンルとして見たオペレッタ12%、フランス、日本が各8%、英米、ロシア、東欧を合わせて5%となります。イタリアオペラではヴェルディの『オテロ』や『マクベス』など日本初演が7本(委託制作や研究生卒業公演も含む)もありますから、むしろオールラウンダーといった方が当たっています。
二期会では芸術監督制をとらず、委員会で芸術上の狙いや観客の開拓など色々な角度から論議を重ね、およそ3年先までの演目、演出家、指揮者などを決めています。このような中・長期レベルでの計画は、創立50周年記念公演の立案を始めた1999年頃から意識して行うようになり、2001年から3年間で9本の記念オペラを上演しました。その後毎年、計画のローリングを行っています。
芸術の世界で合議制というのは奇異に感じられるかもしれませんが、今年度のラインナップを始め、年間4〜5本の公演を続けてきたこの10年を振り返ってみると、「二期会オペラ」の方向性が決してドイツオペラ偏重ではないことがお分かり頂けると思います。(常務理事 中山欽吾)