アタランタは、この物語のヒロイン的存在であるロミルダの妹。ロミルダの恋人である王弟アルサメーネに恋心をふくらませています。あるとき、王のセルセがロミルダを見初めたことを知って、これはチャンスと行動に出ます。アルサメーネからロミルダに宛てられたラブレターを、自分宛だとうそぶくのですが・・・・・・オペラ『セルセ』の世界に事件を巻き起こし、面白くしているのが、このアタランタなのです。
* * *
――二人は今回が初顔合わせと聞きました。まずはそれぞれの印象を教えてください。
新宅: 雨笠さんにはこれまでお会いしたことはありませんでしたが、私は二期会オペラ研修所で1期下でしたので、もちろん存じ上げていました。研修所を優秀な成績で修了され、今年11月には二期会本公演『こうもり』にもアデーレ役でご出演なさる、ソプラノの星のような方だと思っていました。
稽古場で実際にお会いしお話ししてみると、美しい声としなやかな身のこなしが印象的な、笑顔溢れる素敵な方でした!
雨笠: 「なんと可愛らしい方だ!」というのが第一印象です(微笑)。
歌声もチャーミングでいろんな音色を持っていらっしゃる。まだ数回しか稽古でご一緒していないのですが、すでに同じ役でも全く違うアタランタが生まれそうな予感がしております。たくさん刺激し合って、それぞれの魅力が溢れるアタランタを一緒に作って行けたら嬉しいです!
雨笠佳奈
――アタランタはそれぞれどのような役どころと捉えているでしょうか。
雨笠: 簡単に言ってしまうと、このオペラを引っ掻き回す役どころ。とにかく、よく嘘をつくんです!
新宅: 本当に!自己中心的で負けず嫌い。感情豊かで愛嬌のある小悪魔的な性格だと思います。 自分の内から燃え上がる恋の炎に突き動かされて、自由で軽やかに自分の魅力を振りまきながら、嘘や悪賢い立ち回りで物語を混乱させます。すべては自分の“恋”を成就させるため、王まで騙してしまうんです。
それなのに、アルサメーネは一度も振り向くことなくロミルダと結婚してしまい、アタランタの恋物語は“独り相撲”に終わってしまうのですが、彼女は悔しがりながらも自分で見切りをつけ、次の恋へと向かいます。
雨笠: アタランタには、「fra sé」と呼ばれる、かっこ書きのセリフが楽譜の中にも多く見られるんです。これは他の登場人物には聞こえていない彼女の「独り言」といいますか。お客様と彼女の秘密の会話とでもいうような箇所になります。
にっこり笑って心の中で舌を出している、そんな役どころでしょうか(笑)
新宅: 一方で、姉への競争心や嫉妬心を持ち、また、アルサメーネに抱いてしまった自分の恋心そのものを持て余して揺れる乙女心も見せますよね。多面的で人間らしい女性に描かれていると思います。
――今の話だけでも、すでに違う表情のアタランタが見られそうです。それでは、アタランタのアリアについて聞かせてください。
雨笠: アタランタに与えられたアリア、アリエッタ、アリオーゾは全部で6曲。今回はそのうちの5曲を演奏します。
2段しかない短いアリオーゾを除いた4曲のうち、2曲が嘘で人を操ろうとするもの、そして残りの2曲が彼女の本心、本質が露になるもの、と私は捉えています。
――その中から、あえて1曲選ぶとすれば?
新宅: 私は第1幕「Un cenno leggiadretto」をあげたいと思います。
アタランタは、姉ロミルダと恋仲のアルサメーネに片思い中。姉が王セルセに見初められたことをチャンスだと思い、アルサメーネを自分のものにすると言い、「彼を奪うためには騙すことさえも厭わない。こうやって落とすのよ」と、男性を魅了する振る舞い、愛嬌のある笑顔、目線など、様々なテクニックを、音型やリズムを使って次々と表現豊かに披露してみせる曲です。
新宅かなで
――お客様に聴いてほしいポイントは?
新宅: 自分のことをよくわかっていているアタランタは、この曲を通して自分の魅力を余すところなく披露します。愛嬌(vezzosetto)たっぷりに多彩な表現で、エネルギッシュな恋心と、絶対姉に勝ちたいという闘争心に燃えて演じるさまをお楽しみいただけましたら幸いです。
――雨笠さんのおススメは?
雨笠: 私は、2幕に歌われる「No, se tu mi sprezzi」です。短いアリエッタではありますが、彼女がひた隠しにしてきた本質や人間臭さが見える曲だと思います。
この曲は姉の恋人であるアルサメーネを手に入れるための策略が失敗に終わったときに歌われます。
「たとえあなたが私を軽蔑したって、死にたいとは思わない。私の美しさを持ってすれば、新しい恋人なんていくらでも見つかるわ」
と歌いますが、言葉とは裏腹にその旋律は縫うように蛇行したり、跳躍が見られたり。なかなか歌いにくい旋律です。ここに彼女の隠しきれない本心が現れているように私は感じます。最後はムキになって爆発してしまうような感覚を抱いています。
プライドの高いアタランタですが、最後は弱さが垣間見えてしまう。実際にいたら、あまりお友達にはなりたくはないけれど・・・・・・どこか憎めないキャラクターが、そこで表現できるのではないかと考えています。
――やはり、それぞれ違いの出るアタランタになりそうです。最後にお客様に向けて。
新宅: 今回 素晴らしい機会をいただけたことに心から感謝いたします。
二期会ニューウェーブ・オペラ劇場でのデビューに、私の心は震えるばかりですが、アタランタは王様のセルセまでをも巻き込むほどの力強いエネルギーを放ち、チャーミングで、豊かな表現力と、へこたれない心を持つ女性です。そのキャラクターから力と勇気を得て、精一杯努めさせていただきたいと思います!
雨笠: 先日、指揮の鈴木秀美さんから「バロックのオペラは言葉をより重要視する」という教えを受けました。言葉から受けるインスピレーションや、その言葉をよりわかりやすく伝えるためにはどんな歌い方をしたら良いか、どんな装飾を足したら良いか、その時に感じ、生まれたものを音にする。だからこそ、その瞬間瞬間の感じ方によって違うものが生まれる。それが面白い!バロックの音楽はより「生の音楽」であると私は感じております。
公演当日フレッシュな音楽を生み出せるよう、作品に向き合っていきたいと思います。お客様にも劇場でその瞬間に立ち会っていただけましたら幸いです♪
雨笠・新宅: みなさまのご来場をお待ちしております!
* * *
▼『セルセ』公演情報ページはこちら
・二期会創立70周年記念公演 二期会ニューウェーブ・オペラ劇場2021年5月公演 G.F.ヘンデル『セルセ』 - 東京二期会
2021年5月22日(土)17:00、23日(日)14:00 めぐろパーシモンホール 大ホール
指揮:鈴木秀美/演出:中村 蓉/管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ
●公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
←24時間受付、予約&発券手数料0円、セブン-イレブン店頭でお受取の インターネット予約「Gettii(ゲッティ)」も是非ご利用ください!! |