【二つのサロメ】~マエストロ・プラッソンとの再会を心待ちに
『エロディアード』サロメ役 髙橋絵理インタビュー

4月公演『エロディアード』でサロメ役を演じるソプラノ髙橋絵理。2012年『パリアッチ(道化師)』ネッダの熱演で二期会オペラ・デビューを飾り、翌年『ホフマン物語』アントニア役で二期会オペラ2度目の主演では、今回の指揮ミシェル・プラッソンと共演を果たしました。
リリックで瑞々しい歌声が持ち味の髙橋は、2011年静岡国際オペラコンクール第3位とオーディエンス賞を受賞。そして、平成26年(2014年)度の五島記念文化賞オペラ部門新人賞受賞による五島記念文化財団の助成を受けてイタリア・ボローニャに留学しました。帰国後も『ラ・ボエーム』ミミ、『コジ・ファン・トゥッテ』フィオルディリージと新しい役を果たし、二期会オペラ3度目の主演となる今回、マエストロと再会します。
公演に向けて話を聞きました。



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――『エロディアード』のサロメは、どのような役でしょうか。

髙橋: 宮殿の踊り子という共通はあるものの、マスネ『エロディアード』に登場するサロメは、リヒャルト・シュトラウス『サロメ』の妖艶さが色濃くあるサロメとは違い、まだまだ幼さの残る15歳の少女です。特に登場シーンで歌われるアリア「彼は優しい人」では、愛するジャンに対する純粋な恋心が切々と謳われています。その後サロメとジャンが再会するシーンのデュエットでも、「Je t'aime (ジュテーム)」と何度も言い、まさに恋する乙女そのものの音楽です。
また、マスネの描いたサロメは、エロディアードが母親であることを知らず母親を探しています。その生い立ちを踏まえてサロメのキャラクターと音楽を鑑みると、サロメの孤独さ故の芯の強さを感じます。
エロデ王からの求愛を受け、彼の嫉妬心から愛するジャンが処刑されてしまい、サロメ自らも死を決するに至るまでのドラマを一緒に追いかけていただけたらと思います。最初はジャンとともにサロメにも処刑宣告がなされるのですが、サロメだけが免除されてしまう中で、自分だけが助かるのではなく共に死ぬことを懇願します。しかし、その願いが叶えられないとなったとき、自らの意志で自害を遂げます。蝶々夫人やジルダと共鳴するような「強さ」をもっている女性だと思います。


2012年7月 東京二期会 レオンカヴァッロ『パリアッチ (道化師)』より ネッダ役

――サロメの聴きどころを教えてください

髙橋: 先ほどご紹介したアリア「彼は優しい人」は、サロメの一番有名なアリアでしょう。それとともに、私自身が一番胸に迫ってくるのは、第4幕のジャンに呼びかける音楽です。
マスネの音楽は壮大で、重厚感があって、オーケストラもダイナミックなのですが、ここの音楽は特別で、ピアニシモになり、サロメは、ジャンに対して切々と「死をもって結ばれましょう」と歌いかけます。愛する人とともに死を迎えられることの喜びにも似た感情が恍惚とした音楽で書かれているのです。

――サロメと同じ位の年齢のとき、髙橋さんはどのように過ごしていましたか

髙橋: 秋田県横手市で生まれました。かまくらでご存知の方もいらっしゃるかと思います。秋田の中でも盆地で、雪深いところで15歳を過ごしました。幼いころからまわりに自然があたりまえのようにあって、空気もお米も美味しくて(笑)
小さい頃から、私は自分を表に出すことがあまり得意なほうではありませんでした。ただ、歌うことは大好きで、歌うときだけが自分が解放されていくというか、自由な感覚がありました。カラオケにもよく連れていってもらい、祖父の好きな演歌を歌ったりして。人前で歌って喜んでもらえることが嬉しく、歌うことで自己表現ができるという感じがしました。 転機が訪れたのは中学2年のときでした。私は合唱部に所属していて、初めて、声楽家のヴォイストレーニングの先生の歌声を間近で聴いたんです。そのとき、「あ、私もこういうふうになりたいな」と、自然にそう思えました。
それから、少しずつレッスンに通うようになっていったので、言われてみれば、サロメが激しい運命を辿っていた同じ年代のときに、ちょうど私は声楽への道を自分で見つけることができたのかな、と思います。


2013年8月 東京二期会 オッフェンバック『ホフマン物語』より アントニア役(写真右)

――指揮のミシェル・プラッソンとは、2013年『ホフマン物語』アントニア役以来となります。前回の公演のときの印象やエピソードを教えてください

髙橋: マエストロ・プラッソンは、「言葉」に対して厳しかったです。
『ホフマン物語』に出演するまではイタリア語の歌を歌うことが多く、フランス語の経験が少なかったのですが、子音の扱いとか、イタリア語ともドイツ語とも違う仕方で、旋律が言葉として聞こえるようになるまで徹底されました。
きっと、楽譜に書かれている言葉が出るようになることで、そのキャラクターやドラマ性が自然に出てくるのではないかと思います。無理にこねくりまわして音楽を聴かせよう、鳴らそうと思わなくても、フランス語の旋律を話すようになれれば、自然とそういうものが生まれてくるんだな、と。
『ホフマン物語』の後、フランス語を歌うときに必ず意識するようになったので、本当にこれはマエストロ・プラッソンからの賜物です!
指揮台の上でも決して声を荒げたりされませんが、指揮台に立っていないときは、ほんとうに穏やかな方で、劇場入りしてから、毎日私は最初にマエストロの楽屋をノックしてご挨拶をして入っていたのですけど、穏やかにハグしてくださって、いつもとても紳士に接してくださいました。
こうして再会できるのが本当に嬉しくとても楽しみです。またたくさんのことをマエストロから吸収して、マスネの書いたサロメの音楽を歌わせていただきたいと思います。


▼髙橋絵理のサロメは4月27日(土)  《チケット発売中!》
〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ〉2019年4月公演 J.マスネ『エロディアード』 - 東京二期会オペラ劇場

2019年4月27日(土)17:00、28日(日)14:00 Bunkamuraオーチャードホール
指揮:ミシェル・プラッソン、管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団、合唱:二期会合唱団
〈主催〉公益財団法人東京二期会、Bunkamura

●お問合せ・チケットのご予約は
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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