平成19年度に記念すべき文化庁国内共同制作がスタートしました。正式には「文化庁芸術創造活動重点支援事業・舞台芸術共同制作公演」と命名されたこのプログラムは、初年度はパイロット事業ということで、神奈川県民ホールを擁する財団法人神奈川芸術文化財団と(財)日本オペラ振興会、日本オペラ連盟、東京フィルハーモニー交響楽団、東京文化会館など、芸術団体とホールを持ちオペラの自主公演を行って来た団体が、持てるノウハウを出し合って、『リゴレット』を制作上演しました。
翌20年度には、滋賀県の財団法人びわ湖ホール、神奈川県民ホールと当財団の三者が基幹制作団体の日本オペラ連盟とチームを組んで取り組んだ『トゥーランドット』を制作上演しました。びわ湖ホールは9年間にわたってヴェルディオペラの本邦初演を続けた輝かしい記録を持ち、一方神奈川県民ホールは、数年にごとに邦人作曲家に委嘱して新作オペラを制作上演してきた、共に輝かしい歴史を持っています。
単独では為し得ない舞台芸術の実現という目標に向かって、三者三様に蓄積してきたノウハウをまとめあげた成果は、百聞は一見にしかずの言葉通り、圧倒的な存在感の公演を実現することができました。演出を若手演出家のホープの一人、粟国淳に委せたことにより、イタリアの香りを残しながらも封建時代の中国を機械に支配される現代風奴隷社会に見立てたような、大型の舞台装置が迫力満点の舞台を現出しました。
このプログラムの重要な点は、制作側から見ると最終段階の立ち稽古を実際公演する劇場で練り上げることによる完成度の向上、それぞれの劇場単独では各2回の上演となるところ、4回公演を可能にしたことによる出演者達の練度のアップ、などが挙げられますが、観客側から見ると、助成額の上乗せによって、視覚上も単独では絶対に実現不可能な上演規模を実現できたことが挙げられるでしょう。
今年度は二期会も参加した佐渡裕プロデュースオペラ『カルメン』が、この共同制作スキームで上演されますが、兵庫県芸術文化センターでの9回公演、愛知県芸術劇場での2回公演、二期会での4回公演を合わせて、何と15回のロングランが実現します。特定の指揮者の名前が前面に来ることになったのは、兵庫県芸術文化センターの芸術監督である佐渡氏をこの共同制作の芸術監督として、求心力のある制作を実現しようという参加団体の意志があるからに他なりません。
このように芸術的に一貫した制作をするためには、それぞれ芸術監督をおく複数の団体での共同制作では、事前のコンセンサスが事業成功の重要な鍵になることを意味しています。(常務理事 中山欽吾)