『マクロプロス家の事』開幕

ヤナーチェクの響き、と聞くと、俄かには感覚が遠いかも知れませんが、大変印象深く、独特の透明感のある音の世界が魅力です。生粋のウィーンっ子で、世界中から注目される颯爽とした指揮者・アルミンクが、そのキャリアの早い時期から縁のあったヤナーチェク・フィルの経験を生かし、オペラ『マクロプロス家の事』が開幕しました。
氏が音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団のサウンドは素晴らしく、日本ではなじみの薄い『マクロプロス』をピットから支え、そして歌手は楽曲の難しさもさることながらチェコ語という高いハードルを超えるためにこの数ヶ月の稽古を経て、非常に勢いのある舞台となりました。
演出は日生劇場をはじめ、二期会等でもさまざまな公演を通して、安定した舞台と評価が高い鈴木敬介。幕が開くと、そこには、死ぬことができない337年という歳月を生きてきたエミリア・マルティという美しくも摩訶不思議な魅力をたたえた一人の女の物語が始まります。
337年間、いくつもの名前を持ち、世代を超えて男を愛し、愛した男たちが老いていく様を眺めつつ、美しいまま生きてきたオペラ歌手エミリア・マルティを、小山由美が圧倒的な存在感で演じました。蠱惑(こわく)的ともいえる深い声の響きに引き寄せられます。そしてオペラの舞台裏の情景、劇場を支える裏方たちの存在が、この作品の味わいを増します。ユーモアを交えて心優しい道具係を演じる志村文彦、華やかな世界を生きるエミリアに対し、また彼女に次々と言い寄る愛人たちに対し、出番は少ないながら絶妙な間合いで笑いを誘い、人物像を際立たせる掃除婦役の三橋千鶴らがしっかり脇を固めています。
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20・24日組「エミリア・マルティ」小山由美(撮影:鍔山英次/写真提供:日生劇場)
経験豊かな主なキャスト陣は言うまでもなく、美しいクリスタ役にも林美智子といった贅沢な顔ぶれ、そしてグレゴルにはヨーロッパ、アメリカの歌劇場で活躍するテノール、ロベルト・キュンツリーが客演。アルミンクに率いられた新日本フィルハーモニーが奏でる繊細な響きは、一瞬としてとどまることのない時間に対する普遍的な意味での愛惜であるといえるかも知れません。
22日(土)は、蔵野蘭子、大間知覚、高橋淳、長谷川忍らが出演します。
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22日組「エミリア・マルティ」蔵野蘭子(撮影:三枝近志/写真提供:日生劇場)

『マクロプロス家の事』公演詳細ページ
−東京二期会
『マクロプロス家の事』公演詳細ページ −日生劇場

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