オーディション オペラの制作現場からーその6

 最近の二期会オペラでは、時に思い切った新人の登用が話題になります。会場でファンの方から「中山さん、すごい隠し球だね!」などとお褒めを頂くと、自分で決めているわけではなくても、内心「してやったり」と嬉しくなってしまいます。そのような評価を受ける歌手は、まず間違いなくオーディションによって選ばれてデビューを飾った人たちです。沢山の優秀な歌手達がいる二期会では、オーディションは出演の機会を提供するための重要な「場」なのです。
 芸術監督制を敷いていない二期会では、キャスティングは財団の正式組織である10名からなるオペラ制作委員会の合議によって、役柄のイメージやアンサンブルのバランス等を考慮して決められます。公演意図や芸術レベルなどにより、主役級のキャストが重要なポイントになる場合には、特定歌手の指名が行われることもありますが、ほぼ毎回会員対象のオーディションが行われています。
 『フィガロの結婚』のスザンナのようなポピュラーな役は、100名を超す応募者となることもあり、『魔笛』の夜の女王のコロラトゥーラのアリアを何人もの歌手達が楽々と歌うようなオーディションを想像して頂ければ、誰を選ぶかの難しさを少しは想像していただけるのではないでしょうか。その中からダブルキャストで2名の出演者を決めるわけで、全会一致で決まるケースがある一方、選択を迷うほど僅差の歌手が10名を超える大激戦になり、結論が出ずに議論が長時間に及ぶことも稀ではありません。
 このように激烈な競争を勝ち抜いた歌手達にとって、冒頭の「隠し球」の話は大きな勲章となる一方で、選んだ委員にとっても嬉しい評価です。オーディションだけでは期待に反する歌手を選んでしまうリスクもあるからです。しかし長い目で見ると、結局は実力のある人が選ばれていくわけで、こうして頭角を現してきた人たちが多くなるにつれ、公演のレベルは確実に上がり、長い目で見ればキャスティングの妥当性が評価されることにもつながってくるのです。(常務理事 中山欽吾)

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