二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『デイダミーア』キャスト・インタビュー [5]ウリッセ役:メゾソプラノ 一條翠葉&武藤あゆみ

二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『デイダミーア』キャスト・インタビュー。続いては、ウリッセ役のメゾソプラノ、一條翠葉と武藤あゆみです。
ウリッセはオデュッセウス。ホメロスの『オデュッセイア』につづられた、古代ギリシアの物語最大級の英雄です。10年にわたるトロイ戦争を「トロイの木馬」作戦でギリシア軍の勝利に終わらせ、その後も海上での遭難を乗り越えて、愛妻ペネーロペと再会します(このときの物語がモンテヴェルディの『ウリッセの帰還』)。
随一の戦略家として名高いウリッセですが、このオペラで登場する若き知将も、アキッレの居場所を突き止めスキュロス島に到着し、様々な「作戦」を駆使して、変装しているアキッレの正体を暴きにかかっていきます。
公演に向けて、ふたりに話を聞きました。

*      *      *


202404_ichijou_aoha_b.jpg
ウリッセ役 一條翠葉(いちじょう あおは)5/25(土)出演


――二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『デイダミーア』ご出演おめでとうございます!二人が演じるウリッセはどのような役でしょうか?


一條翠葉: ありがとうございます!どんな役……、難しい質問ですね!
私の演じるウリッセはズボン役で大きな使命をもってこの島にやってきた軍人です。目的のために、狡猾に偽名も使いながらデイダミーアやアキッレに近づき、最終的には目的を果たします。
武藤あゆみ: とても頭の切れる知恵者なのですが、さらに私は、ウリッセという人物がある種の悪役的役割も担っているように感じています。と言うのも、ウリッセはアキッレを見つけ出す為にリコメーデ王を半分脅すような形でアキッレの引き渡しを求めたり、デイダミーアを口説いたりします。そして仕舞いには、力強く槍を投げて鹿を仕留めたピッラ(=女性に扮しているアキッレ)をアキッレではないかと考えて、今度はピッラ(=アキッレ)を口説いたり、デイダミーアや侍女たちへの贈り物にわざと立派な武具を紛れ込ませてアキッレの興味を惹く為に策を講じます。するとそこに襲撃音が響いて、その音を聞いたアキッレが「王宮は僕が守る!僕はアキッレだ。」と叫んだことで、ついにウリッセはアキッレを見つけ出すことに成功するのですが、この襲撃音、実はウリッセが用意した偽物で、アキッレの正体を暴く為のものだったのです。
やり方がちょっと(笑)、と思うことも多く、頭が良く、任務に誠実な人物ですが、その為には手段はいとわず策を講じるような人物でもあると考えています。
ですが、だからこそ様々な性格が垣間見えるウリッセを演じられることが今からとても楽しみです!
一條: ホメロスの叙事詩「オデュッセウス」によると、トロイ戦争の後10年以上におよぶ過酷な旅が彼を待ち受けます。
オペラの中でも、素直な感情を表すよりも策略を巡らす場面が多く、それをどう表現するか楽譜を読みながらワクワクしてます。

――目的達成のためには手段は選ばず…という人なのですね。アリアにもそのようなキャラクターがあらわれているのでしょうか。

一條: 私は、最初に歌うアリア「その眼差しだけが(un guardo solo)」をご紹介します。デイダミーアを愛しているフリをして彼女を探っている場面です。
力強い曲調のものが多い中、この曲はとこっとん甘い曲で、練習しながらむせ返りそうになります(笑)

――甘美すぎる、というところにも、ウリッセの「本気」というよりも「作戦」という面があらわれているのかも。

一條: とにかく甘いところをお客様にお聴きいただきたいです。歌詞とメロディの相性でここまで甘くなるのか!と目から鱗でした。ハチミツのようなねっとりした甘さを目指します。

――武藤さんはいかがですか?

武藤: 「いいえ、私はあの美しい人を愛してはいない(No, quella beltà non amo) 」です。
今度は、ウリッセが女装しているアキッレを口説く場面で、「私はデイダミーアを愛していない。私はあなただけを切望しています。」という内容を歌っています。ですが、あくまでもアキッレの正体を明らかにするのに口説いてる歌であり、本心ではありません(笑)。歌詞もウリッセの思いとは反対の言葉を述べています。それでも、前奏が無く、冒頭でいきなりNo,no,noという否定の言葉から始まって、曲全体を通して鬼気迫る勢いがあるこの曲は、ウソと本心が分からなくなるくらい真に迫っていると思います。
激しいメリスマや1オクターブ以上の跳躍などといった技巧的な難しさによる聞き応えももちろんですが、アキッレを口説く為に歌っているにも関わらず、ウリッセがアキッレに自分の想いを信じてもらえないことを本心から嘆き苦しんでいるように感じられるこの曲の詩の内容と鬼気迫るようなその音楽全体を楽しんでいただけたら嬉しいです!

202404_mutou_ayumi_b.jpg
ウリッセ役 武藤あゆみ(むとう あゆみ)5/26(日)出演


――本心を吐露するためのアリアが多い中、ウリッセの歌いどころは「どこまでが本心でどこまでが演技か」をいかに解釈して歌うか、にあるようですね。これ聴き逃せません!
さて、一條さんは二期会オペラ研修所マスタークラスの後、新国立劇場オペラ研修所を修了して、この度のニューウェーブ・デビューとなりました。


一條: ほかのみなさんとは同じ時期に研修所におりませんでしたので、お互いによく知らないのですが、この滅多に上演されないオペラを共に作っていく仲間として過ごしていけたらと思います。

――武藤さんも、一條さんとは初めての現場ですね。

武藤: 一條さんとは今回初めてご一緒させていただくのですが、お話ししてみてご自分の中でのウリッセという人物像をしっかりとお持ちで、同じ役を勤めさせていただく身としてとても刺激を受けました!
同じ役で現場に立たせていただけるこの機会に目いっぱい学び、そして共に同じ役で舞台を作っていく仲間として切磋琢磨していけたらと思います。

――最後に本公演に向けて。

一條: ヘンデルのオペラは、ロマン派やヴェリズモオペラのような派手さが無いように見えますが、歌詞やメロディを読み込んでいくと表現できる幅が多く、いろんなことが試せる奥深いオペラです。その美しさを皆様に楽しんでいただけるよう精一杯稽古に励んでまいります。
武藤: コロナ禍という未曾有の出来事があり、それは今でも完全には無くなっておりません。ですが、そんな中でも力を尽くして「オペラ」を作り続けてくださる二期会の本公演に自分がデビューできることの喜びは計り知れません!
初めてオペラをご覧になられるお客様にも楽しんでいただけるよう、コロナに負けず、全身全霊でがんばりたいと思います。
ぜひたくさんのお客様に足をお運びいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします!

――ありがとうございました。

*      *      *


▼『デイダミーア』公演情報ページはこちら
premium_ban_deidamia2024.jpg
2024年5月公演 G.F.ヘンデル『デイダミーア』
- 二期会ニューウェーブ・オペラ劇場
2024年5月25日(土)17:00、26日(日)14:00 めぐろパーシモンホール 大ホール
指揮:鈴木秀美/演出:中村 蓉/管弦楽:ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ

●お問合せ・ご予約:二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
Gettii ←24時間受付、予約&発券手数料0円、セブン-イレブン店頭でお受取の インターネット予約「Gettii(ゲッティ)」も是非ご利用ください!!


Page Top