2021年08月03日のエントリー

8月公演 A.ベルク『ルル』キャスト・インタビュー
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢役 増田弥生「同性愛者であることも、母親にも似た無償の愛も、どちらも彼女の本能的な愛の形なのだと思います」

東京二期会オペラ劇場『ルル』開幕に向けて、舞台を想定した「立ち稽古」が始まりました。
今回は、ゲシュヴィッツ伯爵令嬢役の増田弥生(8/28、31出演)に話を聞きました。
新国立劇場や東京二期会オペラ公演への出演、そして年末の第九演奏会でのソリストなどオーケストラとの共演実績も多い実力派。ウィーンに留学し、その後もモーツァルト、ワーグナー、R.シュトラウスなど、ドイツオペラの王道を歩んできました。20世紀初頭ウィーンで活躍したアルバン・ベルクの作品に、今どのように向かい合っているのでしょうか。

202108_masuda_yayoi.jpg 増田弥生

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――立ち稽古が始まりました。演出カロリーネ・グルーバーとの稽古はいかがですか?

増田: オーディションの時に、審査員席のど真ん中にグルーバーさんが威厳を放って座って聴いてらしたので、とても緊張したのを覚えています。
昨年2月に、プレトークで来日された際には、個人的にお話しする機会に恵まれました。「『ルル』は確かに難しい作品だけど、型にはめて考えないで、ゲシュヴィッツ伯爵令嬢が一人の人間としてルルを愛するということを考えてきて。」と言われたのが、ストレートに心に響きました。
立ち稽古前のテクスト読み合わせでは、内容によっては1語1語細かく噛み砕いて、丁寧に説明して下さいました。全体を知るためにテクストをよく読むこと。当たり前のことと言われたらそうなのですが、基本を大切に作り上げていく誠実さ、そして「型にはめて考えないで」の言葉通り、演出においては大胆さを持ち合わせた方だな、という印象を受けています。

――それでは、増田さんが演じるゲシュヴィッツ伯爵令嬢は、どのような役柄、人物でしょうか。

増田: ゲシュヴィッツは、原作では「男のような服装で」と描かれており、この出で立ちはゲシュヴィッツが男性的な立場を取りたい同性愛者であることを特徴付けていると感じます。他の男達と同様に、ルルを自分の欲望のままにあやつりたい。「男性の格好をして、その靴のかかとで私の顔を蹴って欲しい」と、ルルに対して、ある種暴走した欲望の持ち主で、怪しげな一面があります。

一方で、命をかけてルルの脱獄を計画する自己犠牲愛や、自分の位を捨てても構わないという気高い勇気も持ち合わせています。これは、「noblesse oblige」(身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務がある、という欧米社会の道徳観)の精神に基づくものと思います。
境地に立たされたルルを、危険も顧みずに救うその姿には、母親にも似たルルへの無償の愛を感じます。どちらも、彼女の本能的な愛の形なのだと思います。

――アルバン・ベルクの出会いについてお聞かせください。

増田: アルバン・ベルクの音楽との出会いは、大学に入学して割と直ぐの頃でした。門下の先輩が、「7つの初期の歌(1905-1908)」を歌っていらして、その情感溢れ別世界へ誘われるようなメロディに魅了されました。これが後期ロマン派の音楽なのかあ、と当時は単純に考えていましたが、ウィーン留学時代は、リーダーアーベントで「7つの初期の歌」をはじめ、「作品2、4つの歌(1907)」などを聴く機会も多く、白井光子さんのCD録音も大好きで、その濃密な音楽にハマりました。

『ルル』は、初期の歌曲作品から約10年後に作曲されていますが、「ほんとうに同じ作曲家の作品なのか!」と、単純に、信じ難い驚きを抱きます。調性が崩れていく自由さや、ストーリー展開に伴う音楽の凄まじさに感動を覚えます。

私はワーグナーを語れる身分ではありませんが、ワーグナーの音楽はR.シュトラウスや、アルバン・ベルクを含む新ウィーン楽派と比較すると、古典的なのかなと思います。しかし、『ルル』の楽曲中、短い主題や動機が繰り返し使われており、こういった「ライトモティーフ」の手法は、ワーグナー以降のドイツオペラには脈々と継承されていることを感じます。

――最後にお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

増田: なかなか上演される機会の少ない『ルル』。二期会でも18年ぶりの公演となります。 中村蓉さんのコンテンポラリーダンス、上田大樹さんの映像のコラボレーションと共に、異世界の舞台をお楽しみ頂けることと確信しております。
コロナ感染が急拡大していて、まだまだ日常で心配なことが続きますが、もし状況がお許しになれば、ぜひ、新宿文化センターに駆けつけていただけたら嬉しいです。
一人でも多くのお客様と、舞台を分かち合うことが出来ますように、心から願っております。

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▼『ルル』公演情報ページはこちら
2021年8月公演 A.ベルク『ルル』 - 東京二期会オペラ劇場

2021年8月28日(土)17:00*、29日(日)14:00、31日(火)14:00* 新宿文化センター 大ホール
*…ゲシュヴィッツ伯爵令嬢 増田弥生 出演日

●公演のご予約・お問合せは《発売中》
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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