その二期会デビューはまさに鮮烈。2016年『イル・トロヴァトーレ』のマンリーコ役に急遽代役出演。見事にこの難役を好演し、一夜にしてスターとして注目を集めました。そして、翌年の『トスカ』カヴァラドッシ、続く『ノルマ』ポリオーネと主役を次々と掌中におさめていきます。昨年も共同制作公演『アイーダ』では、ラダメスの代役を務め、札幌、横浜、大分の3都市の公演の成功に大きく寄与しました。
これまで幾度となくオペラ・ファンの期待に応えてきた城が、今回はフランス・オペラの主役に挑戦します。
* * *
――『エロディアード』のジャンは、どのような役でしょうか
城: ジャンは預言者です。僕が色々なオペラの役を演じる時に頼りにするのは、自分自身の生きてきた人生の経験やそこで生まれた感情です。普通はそれらを基盤に役を組み立てるのですが、「預言者」という宗教的な存在をどうやって今の自分の中から生み出すのか、最初は不安でいっぱいでした。
しかし楽譜を読んでいくうちに、ジャンが発している言葉やその真意は彼の信じる神の言葉なのだと感じるようになりました。ジャンは実際に、自分の意志ではなく神の意志として何度か人々や王族に対し説法をするシーンがあります。それも決まって音楽のクライマックスに! いわば、神の言葉を人々に伝えるパイプ役、この物語を推し進め見守るキーパーソンとして存在するのが、この預言者ジャンという役なのではないでしょうか。
ジャンの言葉には当然のように「神」や「天」という言葉が何度も出てきますが、僕はそれらの言葉の意味を強くイメージしてから歌うようにしています。少しでも自分の見ている景色がジャンに見えるものに近づいていけるようにと…
2017年2月 東京二期会 プッチーニ『トスカ』より カヴァラドッシ役(前左)
――ジャン役の聴きどころは?
城: どれほどの迫害を受け困難にぶつかろうとも、情熱的に信仰を広めるジャンのために、マスネは「信仰のテーマ」と言ってもいいような旋律を用意しています。
最初の登場では、朗々とこのテーマを歌い、サロメに信仰を説きます。次に、ジャンは「ホザンナ」を唱えるカナンの女性達の中から現れて、まるでオブリガードのように力強くこのテーマを繰り返します。そして第3幕、捕らえられたジャンがエロデから問答を受け、群集からも自らの信仰の自由を拒絶されたとき、同じ旋律がこれまで以上の強いパッションをもって現れます。この問答のシーンが、ジャンの信仰の強さを示す一つのピークだと思います。
そして、第4幕。神の強い愛に守られて生きてきたジャンが、牢獄の絶望の中で孤独に打ちひしがれて、ついには「あの娘のことを思い出してしまう」とサロメを想う人としての弱さを語るのです。そのあとのサロメとの二重唱では、ジャンが「主よ、あなたの名前を呼ぶ声を、あなたは私に与えてくれた。そして、あなたを愛する魂も」と神に語りかけるのですが、その「あなた」にはサロメのことも重ねられているように思われます。ジャンのとても人間らしい瞬間がオペラ随一の甘い旋律で紡がれていきます。
2018年3月 東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ ベッリーニ『ノルマ』よりポリオーネ役(中央)
インタビューにて | ――最後に、オペラ『エロディアード』の魅力を 城: 恋がなければオペラじゃない…とまでは言わないですけど(笑)、オペラ『エロディアード』には、純愛物語の要素があって、ジャンとサロメはお互いに人間らしく愛し合っている部分があるのではないか、と思っています。僕はこのオペラのそういった禁句(タブー)を全部包み込んでいるミステリアスなところが好きです。世俗的なエロデにしろ、神聖なジャンにしろ、結局はサロメに惚れ込んでしまうのですからね。『エロディアード』の物語を語るのに、ジュール・マスネの音楽はとても人間的で、甘く美しい旋律にあふれています。本当にこの音楽にこそ、その愛を信じさせる説得力があるのです。 |
▼城 宏憲のジャンは4月27日(土) 《チケット発売中!》
・〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ〉2019年4月公演 J.マスネ『エロディアード』 - 東京二期会オペラ劇場
2019年4月27日(土)17:00、28日(日)14:00 Bunkamuraオーチャードホール
指揮:ミシェル・プラッソン、管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団、合唱:二期会合唱団
〈主催〉公益財団法人東京二期会、Bunkamura
●お問合せ・チケットのご予約は
二期会チケットセンター 03-3796-1831
(月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)
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