2018年07月03日のエントリー

2018年7月 ウェーバー『魔弾の射手』 東西競演特別企画
東西オットカール侯爵役 小森輝彦×大沼 徹 対談

関東も梅雨が明けて、一気に暑い夏がやってきました!
“アツイ”といえば、7月公演『魔弾の射手』も熱いです。実は今回、東京二期会オペラ劇場公演と同じ時期に兵庫県立芸術文化センターでも上演が予定されています。同じ演目ですが、まったく違うプロダクションです。
そこで『魔弾の射手』の東西競演にちなんで、今回、兵庫でオットカール侯爵(※)役を演じる小森輝彦と、東京二期会公演の同役に出演する大沼 徹の二人が、プロダクション横断の特別対談をいたしました!

これまで、2013年『ホフマン物語』(リンドルフ/コッペリウス/ミラクル博士/ダペルトゥット)、15年『ダナエの愛』(ユピテル)、18年『ローエングリン』(フリードリヒ)と東京二期会のオペラ公演で同役をダブル・キャストで演じてきているバリトン小森と大沼。
あらためて対談するのは今回が初めて。

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小森輝彦(左)と大沼 徹

――まずは、二人の出会いから。

小森: 最初に現場で会ったのは、2009年の二期会『ラ・トラヴィアータ』に僕がジェルモン役で出演していたときでしたね。

大沼: はい、あのときは僕がアンダースタディでプロダクションに入っていました。
それから、2011年に僕が五島記念文化財団オペラ新人賞の奨学金でドイツのマイセンに留学していたとき、小森さんの所属されるゲラ歌劇場が近かったので、御招待いただきました。ちょうど12月で『ヘンゼルとグレーテル』でお父さん役を小森さんが歌われるときでした。

小森: 大沼さんは、オペラの中でも『ヘンゼルとグレーテル』が一番好きなんだって。

大沼: そうなんです。それなので、小森さんのところで上演されるというので、招いていただいたんですね。
開演前には、楽屋から客席から見学させていただいて、舞台の上にも少し乗せていただきました。小森さんの楽屋は、上手(舞台の右手側)を出てすぐのところにあるんです。

小森: 僕がいた劇場では男性と女性の楽屋の位置が決まっていて、下手(舞台の左側)が女性、上手が男性になっているんですね。稽古でも女性側袖、男性側袖と言ったりして。
そう、あのときは僕ん家に泊まって帰ったよね。

大沼: はい。ご自宅にお邪魔する前にも、小森さん行きつけの居酒屋さんに連れて行っていただきましたね。

小森: せっかく来てくれたので、劇場の同僚に大沼さんを紹介したのですが、彼のドイツ語があまりにもすばらしいのでみんな舌を巻いた、ということがあって……同じ、ドイツ語を愛するバリトンの、後輩、といってはおこがましいけど、同志が出てきて……うざいな(笑)、と思いましたね。

大沼: (笑)

小森: いや、もちろん、うざいというのは冗談ですけど(笑)、とにかく、大沼さんの存在というのは、僕にとって大きな刺激であり、プレッシャー、そういう思いでいます。
大沼さんの魅力は、皆さんご存じの通り歌唱の素晴らしさだけでなく芝居がとても達者な事で、二期会の『ローエングリン』でも一緒でしたが、稽古場では「え、そこでそんな演技をするのか」という、自分の発想にはない発見をさせてもらえています。勉強になるという言い方は好きではないが勉強になる。よし、だったら自分もやってやる、という気にさせられますね。

大沼: 僕にとっては、もう、小森さんは研修所のときから憧れのような存在です。「先達」という言葉がいちばんしっくりくるのですが、『ラ・トラヴィアータ』の現場のときには稽古場からの帰り道が途中まで一緒だったので、これからどうやって歌っていけばいいのか、歌で身を立てていくには今どうしたらいいか、などということをいっぱい質問しました。
稽古場では、その立居ふるまいまでずっと見てしまいますし、小森さんのドイツでのニュースなども読んだりして、なんというか、自分がこうなっていきたい、という思う方で、また今もこうしてご一緒できるという意味で、やはり自分にとっての先達となる方です。


東京二期会2018年2月公演『ローエングリン』にてフリードリヒを演じる小森(中央)
 
 
――今回演じる『魔弾の射手』のオットカール侯爵役。舞台となるボヘミアの森の領主の役で、第3幕の射撃大会を主催し、物語のクライマックスの場を作っています。それぞれどのような役と考えていますか?

小森: 僕は今回が初役なんだけれど、大沼さんは?

大沼: 初役です。

小森: 出番は第3幕だけで少ないのだけれど、決して軽い役ではなく、独特の重みのあるものとして認識される役のひとつで、名だたる歌手が演じる役です。同種の役では、たとえば『魔笛』の弁者や侍女、『フィデリオ』のドン・フェルナンドなどがそれにあたります。プリンシパルとも脇役とも違う、威厳というか位が必要です。
たくさんいる僕の大好きな歌手のひとりに、ウィーンで活躍したエバーハルト・ヴェヒターという人がいるのですが、ウィーン州立歌劇場で『こうもり』のアイゼンシュタインといえばこの人という時代があった人。彼自身が貴族出身だからか、どのような役を歌ってどんな芝居をしても気品があるのです。彼が歌う役を僕も歌っていけたらという想いがあるのですが、やはり名盤といわれる『魔弾の射手』で彼がオットカールを歌っています。その意味でも、今回の役は自分にとっても大きくて。こういう役が一番緊張するんです。

大沼: 楽譜を見てみますと、オットカールのパートは「ト音記号」で書かれているのですね。ふつうバリトンのパートは「ヘ音記号」で書かれるので、それに比べると、高い声を求められているように思われるのですが、実際に高いです。
なので、これは僕の解釈なのですけれど、もっと低い声の重い威厳に満ちた領主というよりは、どこか軽さのあるキャラクターなのかなと思っています。
感覚でいうと老舗の二代目といった感じです。どのような演出がつけられるのか、楽しみであります。
 
 
――『魔弾の射手』は、ドイツの深い森から生まれたオペラというイメージがありますが、実際にドイツに生活してみて、その森の文化を感じられたことは?

小森: 僕が住んでいたゲラも森の中の町といったところでしたが、そこからさらに郊外にバンガローを作った友人がいて、僕ら家族も週末そこにお邪魔して、練習していたんですよ。
夜になると蝙蝠や鹿や猪がでてきて、茸を採って食べたりもしていました。
ドイツ歌曲の詩によく‘rauschen’という言葉出てきます。「ざわめく」とかそういう意味で、川水の流れや風の音を表す言葉なのだけれど、こうしてコンクリートに囲まれた生活をしていると、なんのことかわからないのですよね。風が吹けば葉っぱが鳴るでしょう、くらいにしか。
でも、実際に中に入ってみると、ものすごい音がするのね、森は。やはりそう言うところから畏敬の念も生まれるし、ドイツの人が森を人格化していくところもわかる気がします。日本と違うなと思うところは、ドイツの人は豊かになると郊外に住みたがりますね。都会を離れて森に囲まれる生活をよしとするところは、森の文化がドイツに定着している証だなと思います。

大沼: マイセンはもっと田舎でしたから、森のようなものです(笑)。僕もよく、森というか林の中を毎日散歩していました。シューベルト〈冬の旅〉の《菩提樹》に、「冷たい風が吹いて、私の帽子は飛んでいってしまったが、私はふりむかなかった」とする一節があるのですが、ある日の散歩の途上、実際に先生に丘の上の切り立ちに立つ菩提樹のところに連れていってもらったら、本当に強い冷たい風が吹いて木が「ざわめいた」のを思い出します。帽子はしっかり手で押えていましたけど。


東京二期会2018年2月公演『ローエングリン』にてフリードリヒを演じる大沼(左)
 
 
――コンヴィチュニー演出について

小森: 僕が最初に観たコンヴィチュニーさん演出の舞台は、ハンブルク州立歌劇場での『ヴォツェック』でした。

大沼: 僕は、小森さんが出られた『マクベス』(題名役・2013年東京二期会)、観に行きましたよ。

小森: 音楽に造詣がとても深い方だと思います。舞台で起こっていることはかなりセンセーショナルなものになっているのですが、音楽の非常に細かく深いところの裏付けがなされているので、安易な反論では崩せない堅固な論理構築ですね。

大沼: 僕が出たのは2011年の二期会『サロメ』(ヨカナーン)でした。当時、まだ若かったので――今もまだ若いんですけど――あまり話ができなかったのですが、『サロメ』は90分くらいのドラマですけど、どこを切り取っても芝居が続いているんですよね。歌っている人もそうでない人も。その整合性というか一貫性というのはすごかったです。
 
 
――それぞれ今回の『魔弾の射手』で楽しみにしていることを。

小森: 日本人とドイツ人だけでなく、ドイツ文化を担っている海外のアーティストが集まるプロダクションで、ドイツ語の薫りにまみれるのが楽しみです。ドイツオペラの元祖ともいえる『魔弾の射手』をこのメンバーで上演することは、僕にとって名誉でもあるし、責任も感じています。
また、町に愛される劇場、兵庫芸術文化センターにまた行けることがとても楽しみです。

大沼: 僕は今年40歳となるのですが、歌手としてはこれからで、節目の年になると思っています。そこで2度目のコンヴィチュニーさんの舞台を迎えることができるというのは、とてもうれしいです。『サロメ』以来7年ぶりとなりますが、あの時はできなかったことも今回はできるというところを見せたいし、成長したところを皆様にみてもらいたいな、と思っています。覚えてもらっているかな(笑)

小森: 覚えているよ、それは。

大沼: そして、また芝居も大好きなので、コンヴィチュニーさんの隙のない芝居を今回もとことんまで吸収したいです。
 
 
――では、最後にお互いの公演にむけてエールを。

大沼: 自分も2012年の『トスカ』で経験した兵庫の熱い1ヶ月が忘れられず、本当に楽しかったです。また僕も呼んでもらえたらなあ、と思います。小森さんも、熱い1ヶ月をお過ごしいただけたらと思います。

小森: 大沼さんには、コンヴィチュニーさんと濃い1ヶ月を、生き抜いてください。
確信していますが、ハンブルク州立歌劇場との共同制作公演ということですが、舞台は、二期会バージョン、東京バージョンで新しく生まれ変わることは、間違いないでしょう。そのための濃い1ヶ月になると思います。
コンヴィチュニーさんにも、よろしく。覚えているかな(笑)

(※)…兵庫県立芸術文化センター公演の日本語表記は「オットカー侯爵」

▼兵庫県立芸術文化センター『魔弾の射手』公演情報はこちら
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2018 魔弾の射手 - 兵庫県立芸術文化センター 特設サイト
 指揮:佐渡 裕、演出:ミヒャエル・テンメ、管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
 2018年7月20日(金),21日(土),22日(日),24日(火),25日(水),27日(金),28日(土),29日(日) 全日14:00
 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

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▼東京二期会オペラ劇場『魔弾の射手』公演情報ページはこちら
《ハンブルグ州立歌劇場との共同制作》 C.M.v.ウェーバー『魔弾の射手』 - 東京二期会オペラ劇場

 指揮:アレホ・ペレス、演出:ペーター・コンヴィチュニー、管弦楽:読売日本交響楽団
 2018年7月18日(水)18:30、19日(木)14:00、21日(土)14:00、22日(日)14:00
 東京文化会館大ホール

●お問合せ・ご予約:二期会チケットセンター 03-3796-1831
   (月~金 10:00~18:00/土 10:00~15:00/日祝 休)

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