2018年05月23日のエントリー

秘蔵音源がついにCD化!「中山悌一メモリアル」のご紹介

昨秋、リリースされたCD「中山悌一メモリアル」。戦後の日本を代表するバリトンの中山悌一が2009年に、その妻でピアニストの靖子が2015に逝去して後、残された膨大なCD、LPを整理するうちに見つかったオープンリールテープがきっかけとなり、CD化されたものです。

テープの箱の裏面に「Kernerlieder57/12」とだけ鉛筆で記されていて、そのほかは手がかりがありませんでした。
以前「中山悌一の芸術」(6枚組CD)の制作でお世話になった、藤本 草氏(現在、日本伝統文化振興財団理事長)に依頼し音源をCDに移したところ、非常によい状態で保存されていたことに驚いた関係者が、ぜひ、多くの方に聴いていただきたいと思ったものの、ピアニストの特定に難航。靖子夫人が存命であれば、悌一の演奏活動について、詳細に記憶していましたが、その夫人も旅立ってしまった今、悌一と数多く共演しているピアニストの小林道夫氏にと、この音源を聴いていただきました。すると、「このピアノは私です」とご回答くださったのです。
小林氏は芸大卒業以降、スケジュール手帳を残されていて、この録音は1957年12月7日午後3時から6時まで青山のドイツ文化研究所の側にあった国際ラジオセンターKRCのスタジオでNHKが録音したもの、とわかりました。
Kernerliederとは、シューマンの「ケルナーの詩による12の歌曲」のことで、シューマンの歌曲の名作群と称される「詩人の恋」「女の愛と生涯」「リーダークライス」などが作曲されたのと同じ1840年に書かれました。全12曲のうち、録音されていたのが9曲という理由は、「NHKの番組の30分の放送枠を想定して選曲されたからでは。」と小林氏。ところがどういうわけか、「収録はしたものの放送はされなかった。」とのことです。



録音された1957年は、悌一がドイツ留学から帰国して1年余が経った頃。戦後の日本でひたむきにドイツ歌曲を学び、現代のように気軽に海外と行き来できない時代で、インターネットはおろか、録音すらも少ない時代に、留学を果たした悌一のひたむきな研鑽の成果ともいえる演奏です。
今回のCD化にあたり、ケルナーのほかに、テープの後半に収められていた「NHK希望音楽会」の放送からシューマン2曲、ブラームス2曲(ピアノ水谷達夫)を収録。
類まれな悌一の美声と、端正な中に情熱を秘めた陰影に富む歌曲の世界を、ぜひお聴きいただきたいと思います。

●●● CD情報 ●●●
平成29年度(第72回)文化庁芸術祭参加作品
「中山悌一メモリアル」
VZCC-1047 定価3,000円+税
販売元:公益財団法人日本伝統文化振興財団

▼収録曲情報等、CDの詳しい情報はこちらから
じゃぽ音っと作品情報:中山悌一メモリアル - 公益財団法人日本伝統文化振興財団

中山悌一(なかやま ていいち 1920年2月6日-2009年9月29日)
大分県出身。ドイツ歌曲を研究し1941年東京音楽学校卒業。木下保に師事。1952年に柴田睦陸らと二期会を結成し、理事長を務める(1952-1998)。弟子には大賀典雄、宮原卓也、伊藤京子等がいる。ミュンヘン高等音楽学校に留学してゲルハルト・ヒュッシュに師事。1956年帰国し演奏活動再開。以降放送などへの出演は800回を超える。 東京芸術大学教授、武庫川女子大学教授、洗足学園大学客員教授を歴任。
1950年および1957年毎日音楽賞受賞、1983年紫綬褒章受章、1991年勲三等瑞宝章受章。
2009年89歳で死去。
 
 

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